SKETCH BOOK



「なんか馬鹿らしくなってきた。
 あんなのどうでもいいわ。
 また買えばいいし」


「そうなの?でも、取り返したくない?
 せっかく描いたのに」


「また描けばいいだけの話。お前は気にすんな」


「でも」


「心配してくれてありがとうな。
 でも、大丈夫だから」


橙輝はあたしの頭に手を置いて笑った。


チョークだらけの手があたしの頭を撫でる。


チョークで汚れるとか、
そんなことはどうでもよくて、


ただ柔らかい感触があたしを包んだ。


あたしは決意した。


絶対橙輝のスケッチブックを取り戻そう。


そして返してあげるんだ。


そしたら橙輝はどんな顔するかな?


笑ってくれるかな?


そうだといいな。


「そっか!じゃあ、あたしは戻るね」


「梓」


「ん?」


「ありがとうな。ほんとに」


「うん」


本当に橙輝は柔らかくなった。


出会った頃が嘘のように。















パタパタと廊下を駆けていると、
前から浩平がやってきた。


「梓。どこに行ってたの?」


「ど、どこにも!
 ちょっと涼んできただけ」


「そっか。なあ、今日デートしない?」


「ごめん。今日はちょっと……」


「大丈夫。用事ならしょうがないね。
 また今度な」


「うん」


ごめんね、浩平。


あたしは橙輝のために
スケッチブックを取り戻さないといけないから。


心の中でそう謝って、あたしは笑顔を返した。


なんとなく言いづらい。


浩平には橙輝の話をしたらいけない気がするの。


言ったら絶対、悲しませる。


だから内緒なの。ごめんね。


大丈夫だと言ってはいたけれど、
橙輝はきっとショックなはず。


だって午後の授業には
ほとんど顔を出さなかったもの。


それだけ大事なんだ。


だからあたしが、取り戻すんだ。





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