SKETCH BOOK
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放課後、あたしは職員室の前に来ていた。
軽く深呼吸をして中に入ると、
中では忙しなく先生たちが動いていた。
「すみません。山根先生はいますか?」
「おう、百瀬。山根先生なら
美術室にいるんじゃないかな」
「わかりました。ありがとうございます」
ぴしゃんとドアを閉めて深く息をつく。
なんだ、いないのか。
緊張していたのか、
いないと知った途端脱力する。
美術室は三階にある。
あたしは急いで階段を駆け上がった。
美術室に着いて、ドアをノックすると、
先生の声が聞こえた。
すっと扉を開けると、先生は
何かの雑誌に目を通している最中だった。
先生は一度顔を上げてあたしを見ると、
また雑誌に視線を落とした。
「名前」
「えっ?」
「お前の名前は?」
「あ、百瀬梓です」
「百瀬?ああ、鳴海と同じクラスの」
「はい」
先生は高圧的でとても怖い。
だけどここで怯んじゃいけない。
手ぶらでは帰れないんだから。
あたしはごくりとつばを飲み込むと、
大きく息を吸い込んだ。
「橙輝のスケッチブック、返してください」
「なんだって?」
「だから、その、橙輝の大事なものなんです。
だから返してください」
先生は雑誌を閉じてあたしを見た。
メガネの奥の眸が鋭い。
だけどあたしは繰り返し先生にお願いした。
すると先生は立ち上がって、
橙輝のスケッチブックを取り出した。
「これが大事なものね。
授業中に出しておくのが悪い」
「そ、それは謝ります。でも」
「お前が謝ってもなあ」
「でも、橙輝はそれが……」
「どうせただの落書きだろう。くだらない」
「先生は橙輝の絵を見たことがないんですか?」
聞き捨てならない言葉だった。
落書き?そんなわけないじゃない。
よく見なさいよ。
橙輝の絵は一つ一つ心がこもっていて、
あんなに素晴らしいんだから。
あっと驚くほどうまいんだから。