SKETCH BOOK



橙輝は席を立ちあがってどこかに行ってしまった。


きっとあの空き教室だ。


あそこで絵を描くんだ。


あたしはお昼を持って空き教室に向かった。


教室を覗くと、チョークを持ったまま
ぼうっとしている橙輝がいた。


すっと静かに扉を開くと
橙輝はこっちを振り返った。


あの時みたいに嫌そうな顔はしていない。


気力のない、そんな顔だった。


「何してるの?」


「絵を、描いてた」


「何も描いてないじゃない」


「そうだな」


「あのスケッチブック、そんなに大事?」


あたしが思い切ってそう聞くと、
橙輝は力なく笑った。


「まあな。あれにはお前に渡そうと
 思ってた絵も入ってたんだよ」


「えっ?そうなの?」


「ひまわり畑に行った時の。
 お前、ひまわり好きそうだったからさ」



そうだったんだ。


だからあんなに怒ったのかな?


あんなに必死になってたのかな?


そうであってほしい。


そうであったらどれだけいいか。


あたしのために必死になってくれたのなら
どれだけいいか。


まあ、そんなことあり得ないんだけど。


あたしは橙輝の隣に腰を下ろすと、
チョークを黒板に当てた。


簡単なひまわりの絵を描くと、
橙輝が初めて声をあげて笑った。


「はは。へたくそ」


「下手で悪かったね!
 あたしには絵心がないんでねー」


「貸してみ」


橙輝はチョークを受け取ると、
慣れた手つきでチョークを走らせた。


数分もしないうちにひまわりが浮かぶ。


あたしのとは比べ物にならないくらいのひまわりが。


隣に並んだあたしの絵がなんだかみっともない。


橙輝はチョークを置くと大きく伸びた。



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