SKETCH BOOK



橙輝は絵を見て呆然としていた。


ただ拳を握りしめて、絵を見つめていた。


その姿が痛々しくてとても見ていられなかった。


橙輝がかわいそう。


見せ物じゃないのに。


これは橙輝の思い出と、
希望と、叶うことの無い夢なのに。






「麻美……」




ポツリと橙輝が呟いた時、
あたしの体は動いた。


壁に貼られていた絵を全部剥ぎ取り、
橙輝の手を引いて歩き出す。


あの空き教室まで来ると
ドアを閉めて鍵をかけた。


橙輝はぼうっとして立ち尽くしている。


あたしは取ってきた絵を広げてその絵を撫でた。


「ごめんね。橙輝」


「なんで、お前が謝んの」


「だって、あたし、こんなことしか出来なくて」


「謝るなよ」


「嫌だったよね。悲しいよね。
 橙輝だけのものなのに」




この絵は、橙輝だけのものよ。


他の誰でもない、橙輝の大切な絵よ。


あたしでさえ、見ることの許されない絵なのよ。


それなのに、あんな形で広まってしまうなんて。






「あんなの、ただの絵だ」





「でも!」


「ただの、絵、だよ……」


橙輝の声が震えた。


あたしは橙輝の手をそっと握った。


その手も、震えていた。




< 152 / 179 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop