SKETCH BOOK



「橙輝、かわいそうだったから」


「だから梓が庇うの?
 空き教室なんかで一緒にいて」


「しょうがないじゃない。
 どうして怒るのよ」


「梓は誰の彼女なんだよ。
 いつも鳴海、鳴海ばっかりで。
 いい加減にしてくれよ!」


浩平は悪くない。


悪いのはあたしだ。


だけどあたしは、納得いかなかった。


ただ一緒にいただけじゃない。


いつも三人一緒にいるじゃない。


それにあたしは妹なのよ。


妹が兄の心配をしちゃいけないっていうの?


「何よそれ。あたしがいつ
 橙輝ばっかりになったっていうの?」


「いつもだろ!気付いてないと思ってた?
 いつも梓は橙輝のことばっかりじゃないか。


 俺といたって考えているのは
 橙輝のことばかり。
 分かりやすすぎるくらいに。
 ずっと気づかないフリをしてきた。
 いつかは俺のことを見てくれるって思ってたから。
 でも、もう限界なんだよ」





限界なんだよ。





その言葉を聞いてはっとした。


あたし、知らないうちに浩平を傷つけてた?


無意識に橙輝のことばかりになっていて、
知らず知らずのうちに浩平を傷つけていたんだ。


優しい浩平は何も言わなかった。


いつも明るくて、笑っていて、
楽しませてくれて、


最高の彼氏を演じてくれていた。


それも限界が来てしまったの。


音もなく幸せだった時間が崩れていく。


でも、後にはひけない。



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