SKETCH BOOK
「あたしは橙輝のことなんかなんとも思ってないわ!
浩平のことだってちゃんと考えてる!
あたしは――」
「好きだろ!鳴海のこと」
「橙輝のことは好きじゃな――」
好きじゃない。
そう言おうと思ったのに、言えなかった。
そのかわりに涙がポロリと零れ落ちた。
ああ、嘘をつくってこんなにも辛いのね。
あたしは橙輝が好きなんだ。
浩平じゃなくて、橙輝が好きなんだ。
浩平はあたしよりも先に、
その気持ちに気付いていたんだ。
「泣くなよ。ごめん。
俺が悪かった。ごめん」
「あ、たし……橙輝のこと……」
「分かってる。必死に気持ちを
消そうとしてるのも、俺のことを
好きになろうとしてくれてたことも。
だっせぇな、俺。
分かってるのに大人げないよ。
鳴海に嫉妬して、梓を泣かせるなんて。
ほんとにごめん」
「浩平、あたし――」
「なんで、鳴海?兄弟だよ?
付き合えないじゃん。
そんなの辛すぎるじゃん。
俺にしろよ。そしたら俺、
絶対梓を幸せに出来るのに」
『あんたは松田くんと一緒にいた方が幸せになれるよ』
百合の言葉を思い浮かべる。
本当にその通りかもしれない。
浩平はこんなにあたしのことを
思ってくれているのに。
このまま浩平と一緒にいた方が、
あたしは幸せになれるかもしれない。
傷つくこともなく、
楽に恋をしていけるのかもしれない。
でも、あたしの心がそれを許さない。
今、分かった。
この気持ちは消えることはない。
苦しいって分かっているのに、
それでも橙輝を選ぶんだ。