SKETCH BOOK
「どうしても鳴海を選ぶなら、
ちゃんと俺のこと、振ってよ」
「えっ?」
「俺のことなんか好きじゃないって、
ちゃんと言って」
「そんな……」
「それくらい、俺のお願い、聞いてくれよ」
あたしは多分、傷つきたくなかったんだ。
浩平を振りたくなかったのは、
傷つきたくなかったからなんだ。
浩平の傷つく顔を見たくなくて、
罪悪感を感じたくなくて、
それで今まで無理してたんだ。
そのうち好きになるから大丈夫。
そう思ってここまで来てしまったんだ。
何それ。
あたしが悪いじゃんか。
全部あたしのせいじゃんか。
傷つけたくないと思っていたのに、
結局あたしは浩平のことを傷つけてしまったんだ。
バカだ。
こんなに愛してくれているのに、
その手を取らないなんて。
あたしのことを見てもいない人を
追いかけるなんて。
「ね?梓。梓は、俺のこと、好き?」
言わなくちゃ。
ちゃんと言わないと。
でも、言葉が出てこない。
人を振るっていうことが
こんなにも辛いなんて思わなかった。
初めて人から好きだと言われて、
初めて手を繋いで、
浩平には色んな初めてをもらった。
楽しいことばかりをもらってきた。
この手を離せばあたしはきっと不安定になる。
一人じゃ支えられない
綱渡りの上を歩くことになる。
それでも橙輝がいいというのなら、
それでもこの気持ちを消せないというのなら……。
「好きじゃ……ない」
ポツリと、言葉を落とした。