異邦人
「えー面白いってなんだよ。綺麗な人ならおしとやかでいろよ」と藤井が言った。
「面白いっていうか人を笑わせるのが上手いんだよ」と俺が言うと「何?お前も知ってるの?」と藤井に言われてなぜかドキッとした。「あぁ、まぁ、同じフロアだし」俺がそう応えると「ねーオバさん化してるから面白いんじゃなくてー?」と木下が茶化してきたので「いや、木原さんはオバさんじゃないよ」とムキになって俺は否定した。
「まぁまぁ、オバさん好きの増田くんをいじめたらかわいそうだからここまでにしよう」と藤井が訳の分かんないことを言ってきたのでそれに対しても「オバさん好きじゃねー」となぜかムキになって否定した。その光景を冷めた目で橋本が見ているような気がしたので「なんだよ」と聞いたがお得意の「別に」で振り払われた。
「でも、年上の女性は無理だなーやっぱ。プライド高そうだし」と藤井が言ったのに対し橋本は「でも、木原さんはそんなんじゃないよ」と応えた。
「ね?」と橋本に聞かれ俺は「あぁ、まぁ」と適当に応えた。「へーそこまで言われたらその木原ちゃんに興味持っちゃったなぁ、俺。紹介してよ」とニヤニヤしながら藤井が俺に聞いてきたので「その顔、気色悪い」と言って木原さんの話題を切り上げた。

飲み会が終わりみんなと駅の前で別れると、俺は電車に乗り家路へと向かった。同じ方面の同期がいなかったため、俺は一人空いた席に座ると懐から携帯を取り出した。その時に誰かからメッセージが届いてることに気づいた。木原さんからだった。俺ははやる気持ちを抑えながら恐る恐るメッセージを見た。
「今週の土曜日空いてる?」
意外なのか、彼女らしいのか分からないが割とシンプルなメッセージだった。しかし、それだけで俺の心を昂ぶらせるには十分だった。「今週の土曜日?うわ、大学の友達と飲み会があった」俺は、露骨なまでにショックを受けた。俺にとって折角の木原さんからの誘いを断るのは気が引けた。でも、予定があるから仕方がなかった。俺は悩んだ末に「今週の土曜日は先約があるため次の日曜日なら空いています」と送った。手も心も震えた。女性にメッセージを送るだけなのにここまで緊張したのは初めてだった。
すると数秒で彼女からの返信がきた。思わず「早っ」と言った程だ。彼女には男を焦らす時間というのを持たないのだろうかとふと思ったがそれよりも返信の内容が気になったので俺はメッセージを見た。
「えー次の日仕事だよ?やだよ」
シンプルに落ち込んだ。俺が誘った訳でもないのに断られた気分になった。えーどうしようと考えているとすぐにまたメッセージが届いた。
「来週の土曜日は?」
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