異邦人
「なんだそれ。余計なお世話よ」
「いやーだから、木原さんは綺麗な人だからおしとやかだったらモテたでしょうにって。あ、怒らないでくださいよ。言ったの黒川係長なんですから」と言ってみたが実際俺も気になっていたことだった。なんで彼女はキャラが変わっているんだろう。
彼女は、ふぅっと深く息を吐くと薮から棒に「チャールズ・ダーウィンって知ってる?」と聞いてきた。
「え?突然なんですか」
「いいから、答えて」
「進化論ですか?確か・・・」
「そう。その人の名言を知ってる?」
「いや、そこまでは知りませんけど」
「なら、いいや」
「なら、いいやって・・・。教えてくださいよ」
「嫌よ、自分で調べて」と言うと彼女はローストビーフをナイフとフォークを使って切る作業に取り掛かってしまった。
怒ってしまったのだろうか。俺は彼女を慰めるため「でも、俺はおしとやかな木原さんよりも面白いことを言って場を盛り上げる木原さんの方が良いですよ!」と言った。
彼女は一瞬複雑な面持ちになったが、ナイフとフォークを置き、ワイングラスを手に持つと伏し目がちに「ありがとう」と言ってワインを一口飲んだ。

会話が途切れてしまった。彼女は横を向くと窓の外で星のように光り輝く東京のビル群を見始めた。彼女の横顔は明かりを落とした室内でも白く輝いていた。ツヤ感のある透き通った肌、ギリシャ彫刻のような整った横顔、その全てに気品が溢れていて、俺はしばらく彼女の横顔から目が離せなかった。今日の彼女は白いシャツに黒いスカートというシンプルな出で立ちで、耳飾りには真珠。その真珠の中には小さなブランドのロゴが施されており、さりげなく光を放っていた。

「美しい・・・」女の人を見てそう思ったのは彼女が初めてだった。しばらく彼女の横顔を見ていると不意に彼女がこちら側に顔を戻し「増田くんって休日は何してるの?」と聞いてきた。
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