ツンデレ黒王子のわんこ姫
「そろそろ寝るか。明日も早いしな」

離れの部屋の露天風呂を楽しんだ後、二人は並んで敷かれた布団に潜った。

二人揃って泊まりがけの旅行は今回が初めて。

外泊、ましてや婚前旅行などもってのほかという、白木家。

芽以はドキドキしながらも、布団を被って目をつぶり眠気が来るのを待とうとしていた。

「芽以」

芽以の隣から健琉が動く気配を感じる。

健琉の長い足と温かい体が芽以の布団に潜り込んできた。

「た、健琉さん?どうかしましたか?」

芽以は心臓がバクバクと音をたてるのを必死で堪えながら、健琉に向き合った。

「これからも俺と一緒にいたいか?」

それは唐突で、まっすぐな質問だった。

「今なら桃山靖国と婚約し直すこともできる。芽以は本当はどうしたい?親に強制的に婚約させられて、俺を好きだと思いこもうとしているんじゃないのか?」

なぜこのような酷なことを言うのだろう。

芽以の大きな目から涙が溢れてきた。

「なあ、芽以,,,」

「なんで、そんなことを言うのですか?私が健琉さんを好きなことはずっと伝えてきたはずなのに。健琉さんこそ、こんな面倒くさいお子様なんて嫌になったんじゃないですか!」

芽以にしては珍しく激しい口調だ。

芽以は健琉に背中を向け、体を丸めて静かに涙を流す。

「芽以」

芽以の背中側から優しく健琉が抱き締める。

「俺でいいのか?」

「健琉さんじゃないと,,,ダメ」

健琉は、グィッと芽以の体を自分の方に向けると、強引に芽以の唇を奪った。

「それなら、このまま俺のものになる?」

芽以は、その言葉の意味がわかって真っ赤になった。

「俺を信じるなら、このまま俺のものになって」

芽以は小さく頷くと健琉の顔を見上げた。

健琉の唇が、芽以の涙を拭い、続けて、頬から耳、首筋にかけて移動する。

「俺の芽以」

優しく降り注ぐキスに芽以は溺れる。

「はい、健琉さんの芽以です」

芽以は心から健琉と婚約者になれて良かったと思った。

芽以の初めては全部、健琉に与えられるもの。

二人は一つに溶け合い、迎え来る未来に思いを馳せた。

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