甘い運命

1-17

ほぼ帰り支度を終えていた課長と、駅に向かって歩きながら、プライベートなお喋りに突入した。

ひとしきりケーキの話をした後、課長は思い付いたように聞いてきた。

「橋本ってさ、彼氏とか作んないの?
奈津美も心配してるぞ。」

「心配はありがたいんですけど、こればかりはご縁なので。」

「いやお前、そのご縁すら避けてるだろ。
お前いい奴だから、勿体ないぞ。」

「…なかなかブスの相手をしようという奇特な男性は、いませんて。
──紹介されても相手が迷惑ですから、やめてくださいよ?」

先に釘をさす。以前一回、無理やりセッティングされて失敗している。
被害妄想かもしれないけど、その人にも『これ?』みたいな表情をされて、地味に傷ついた。

「いや、お前そんなブスじゃないだろ。美女とは言わんが、そこそこだろ?」

「いやん、『そこそこ』で嬉しくなる私って…」

両手で頬を押さえつつ、身体をくねらせてみる。ヘイ、突っ込みカモーン!

「その動きやめろ!」と言いつつ震える真似をする課長の腕をひっばたいて、コント完了だ。

「冗談はさておき」

課長は、私の髪に手を伸ばし、撫でてぐちゃぐちゃにする。
抗議の目線で見る私に、優しい『お兄ちゃん』の顔をして、続ける。

「俺ら夫婦は、お前が『いい奴』で、きっと『いい女』だって知ってる。

最初から諦めずに、ちょっと自分と向き合え。

奈津美がずっと、ひょっとしたらうちの子どもらのことよりも、お前のこと心配してる。」

「わかってますよ、昨日も電話ありましたし。
まあ、おいおいってことで勘弁してください。

取り敢えず、今は三上さんの会社対策の方をお願いします。」

「……わかった、気をつけて帰れよ。」
「あざーっす。」

わざと、男の子のように返事をした。
その気がないアピールだ。
課長は、ちゃんと察してくれているだろう。


駅についたので、挨拶をして別れる。

帰りの話はともかく、三上さんの会社の件の報告と、ある程度対策ができたことで、私はすごく安心していた。

その様子を、悪意をもって撮影していた人がいるとも知らずに───
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