甘い運命

1-26

コーヒーを飲みきって、私は山崎くんのところに行った。

山崎くんは2つ年下の男の子。性格が明るく人当たりもいいので、私みたいなお局にも気安く声をかけてくれて、懐いてくれている。
私も可愛がっている後輩だ。

今日たまたま内勤で、声をかけるとすぐ会議室を取ってくれた。
山崎くんは仕事のできる子だ。
一時間半程で、スムーズに私の引き継ぎをすることができた。
松本フーズについては、来週時間を取ることになった。

「…事情は課長から聞きましたけど、何だか凄いですね。ちょっと信じられないっす、俺。」

「心配しないで。私も信じられないよ。」

私は苦笑いを返すと、資料を揃えてファイルに挟んだ。
それを渡していると、山崎くんがニヤリと笑った。

「三上さんって、凄いイケメンなんでしょ?
うちの会社にもファンがいるって聞きましたよ。

ずっと羽田課長が担当で、課長になるときに橋本さんに引き継がれたんですよね。

女性なのに今まで何も問題起こさなかった橋本さんが、逆に凄いのかなぁ。」

「…何か言い方に含みを感じるよ?山崎クン。
そんなに私を弄りたいのなら、課長にお願いしてカワモトも貰っちゃおっかな?」

ひぇぇやめてください、と、情けない悲鳴が。
ふふん、先輩を弄った罰だ!

「冗談はさておき、問題の起こりようがないよ。
三上さんは公私混同なんかしないし、私もイケメン相手にそんなアプローチする自信なんかないしね。

三上さん、厳しいけど優しい人だから、迷惑かけないように、仕事きっちり頑張ってよ!」

背中をバンと叩いたら、引き継ぎは完全に終了だ。

笑顔で踵を返すと、ミーティングルームから足早に立ち去った。

後は、電話でアポを取って、山崎くんを紹介するのみ。
できたら、修一さんの会社のロビー付近でできないかな。
修一さんの会社の人に、担当が変わったことを周知して、早く負担を減らしてあげたい。


……これで、接点がひとつ、減る。
抱き枕はまだ続くだろうけど、それもいつまでかわからないし…。

──ダメダメ。仕事しよう。

私は修一さんの仕事用携帯を、引き継ぎのアポを取るべくコールした──
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