甘い運命

1-27

その日、引き継ぎの話はせずにアポを取った。

来週の水曜日だ。

ふう、と溜め息をついて、仕事用携帯を鞄にしまう。
ん…?鞄の中の私用携帯に、メッセージアプリの着信ランプ。

開いてみると、修一さんから。

『ごめん、今日キャンセルで』

一言のみ。今日は金曜日だから、基本的に約束しなくてもお泊まりの日になっている。

一言メッセージは珍しいけど、私的には助かった。

今、この精神状況で修一さんと会うと、何だかおかしなことになりそうだ。
私が…何か壊れてしまいそうな気がする。

『承知しました』と返信して、スマホをスーツのポケットに入れた。

何だか不安定だ。いろんな事があったから。
ちょっとリセットしたいけど、誰かと会うのも億劫だ。

─定時過ぎたし、映画にでも行って気分転換するかな。

私は早速デスクに戻って片付けをして、会社を出た。
湿った空気が、どんどん重たくなっているのを感じる。
映画を見て出たら、雨が降っているだろう。
でも、やめる気にはならなかった。


一駅先に映画館がある。
確か、観たかったアクションものをやってたはず。

私は足早に、駅へ急いだ──





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