男装したら数日でバレて、国王陛下に溺愛されています
ミシェルは卵を深い器の中で割って、フォークでかき混ぜる。よく混ざった卵液を熱したフライパンにヤギのバターをたっぷり落としてから入れた。
 
ふんわりと出来上がった卵焼きにミシェルは満足し、フライパンから皿に移動させる。

その時、台所の窓から見える庭の向こうがにわかに騒がしくなったことに気づく。


「馬車だわ。お父さんかしら」
 
父から戻るとあらかじめ連絡を受けていないマリアンヌは首を傾げ、エプロンで濡れた手を拭きながら急ぎ足で玄関に向かう。
 
ミシェルも気になって、ドレスの裾をひるがえして母の後を追う。
 
馬車から降りて来たのはやはり祖父であるロドルフだった。右足を包帯でぐるぐる巻かれており、松葉杖でこちらへ歩いてくる。

その足取りはゆっくりで痛々しい。
 
だがいでたちは白髪の頭にハットをかぶり、グレーのコートとズボン姿で、国王陛下の侍従長らしいパリッとした格好だ。


「おじいちゃん!」
 
ミシェルは松葉杖でやって来る祖父に駆け寄り、身体を支える。


「おおっ、ミシェル。久しぶりだな。フランツはどこにいる?」
 
ロドルフは愛おしい孫娘に笑みを向けるものの、憂事を抱えているようにミシェルは感じられた。

(おじいちゃん、心配事があるのかしら……。足を怪我しているから、おじいちゃんはそんな顔なの……?)


「フランツは十日前からエレナ叔母さんのところへ行っているわ。喘息が酷くなったみたいでお薬を届けるために」

「なんてことだ!」


 ロドルフは悲痛な顔になり、頭を抱える勢いだ。


「おじいちゃん、どうしたの……? 足が痛い?」


様子のおかしい祖父にミシェルは心配そうな表情になった。
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