男装したら数日でバレて、国王陛下に溺愛されています
ミシェルはその布を横の柱に留める。
 
そしてベッドのリネン類を外そうとした手が止まる。


(なんていい香りなの……)


 
ふんわりと匂ってくる香り。
 
爽やかでいて、ずっと包まれていたい甘さのある香気にミシェルはうっとりとなる。
 
その薫香は、昨日抱き上げられて運ばれた時に覚えのあるものだった。
 
再びミシェルの心臓がドキドキ暴れ出す。


(どうして……また心臓が……?)
 

自分の鼓動が普段のようでない状態がなぜだかわからない。


(胸を締めつけているせいよね。早くやってしまわないと!)
 

不規則に乱れる心臓を気にしないようにして、ミシェルは手を動かした。
 
少ししてからアベルがやってきた。


「ああ、綺麗に出来たね。家でもやっていたのかい?」

「はい! お母さんの手伝いを!」
 
と、意気揚々と答えてから、フランツはやっていなかったことに気づく。普通男子はよほどのことがない限り手伝っていないだろう。


「あ、いつもガミガミ言われて……妹がやらなくて……」

「ははっ、いいお母さんじゃないか。妹さんがいるとロドルフさまから聞いていたよ。男女問わず手伝いはしなくてはな」
 

とっさに思いついた嘘をアベルはすんなり受け入れて笑った。

 
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