男装したら数日でバレて、国王陛下に溺愛されています
「おじさん、ありがとうございます。おかげで長時間歩かずに助かりました」
 

ミシェルは笑顔でここまで連れてきてくれた年配の男性にお礼を言った。


「なに、通りがかりだ。また会えたらいつでも乗せてやるからな」
 

そう言って、年配の男性はミシェルを降ろして去って行った。


「んー久しぶりっ」


パンの焼ける匂いや、お肉を焼く匂い、様々な食欲をそそる匂いが漂ってきて、ミシェルは弾む足取りで「マーサーズ」へ向かった。
 



「マーサ!」
 

ミシェルは建物の扉を開けておかみの名前を呼びながら店の中へ入った。マーサは呼ばれて、奥からエプロンで濡れた手を拭きながら出てきた。

店を開ける前でまだお客はいない。


「おや、フランツ……じゃなくてミシェルね?」
 

マーサは一瞬フランツだと思ったが、笑顔を見てすぐにミシェルだとわかった。


「わかっちゃった?」


ミシェルはにっこり無邪気な笑顔をマーサに向ける。


「もちろんよ。自分の子供みたいなもんだからね。でも、男の子の恰好をしてどうしたの?」

「訳があって――」
 

ミシェルは信頼しているマーサになぜ男装をしているか話をした。


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