今夜、シンデレラを奪いに
真嶋は何処かに電話をかけて、何かを淡々と指示しているようだった。誰かに指示をするのにすっかり慣れている人の話し方だ。


「先程の続きになりますがこのマイクの音声はエヴァーグリーンの某事業部長や、オーク監査部門のライブラリにも転送されています。」


「え、マジで」


「はい。ちなみに今も継続しています。」



私が「あんたのためなら喜んで死んでやる」って思いきり叫んだのまで…………いろんな偉い人に聞かれてるってこと!?


想像した瞬間に極限まで顔が熱くなる。死ぬかもしれないと思ったから思わず言ってしまったけど、冷静に考えてみればさっきのあれはどう考えても愛の告白だ。


恋人でもないのにあんなこと言われたら、だいたいの人は引いてしまうだろう。



「あの、さっきのは、」



真嶋と目が合うと、口の前で人差し指を立てて妙に色っぽい笑顔を向けられた。まるで心の中まで見透かすような表情だ。


「思いがけずあなたの口から福音を投げかけて頂いたのは嬉しかったですが、贅沢を言えば傍聴者のいない場所でもう一度聞きたいものです。

ですから、個人的な話は後程。」




……真嶋は本当にずるい。

普段は嫌味しか言わないくせに、こんなときだけは思わせぶりな優しさで、いとも簡単に私を黙らせる。会うまでは勝手にいなくなったことを怒ってやろうと思っていたのに。



「エヴァーグリーンの某事業部長って、やっぱり」

「はい、お察しの通りです。

不用心に悪魔と取引などするものではありませんよ。まりあさんがここにいるのは、おおかたそういう理由でしょう?」


「悪魔っていうのは流石に言い過ぎ………」


「あの方について『怖いと思いきや実はいい人』などと生易しいこと思っているなら認識を改める事です。

噂通りの、掛け値なしの鬼です。

まりあさんをここに寄越したのは何の企みでしょうか。報告がなければ背信行為と受けとります。言うまでもなく、俺は腹を立てていますよ」


そこまで言うと真嶋はマイクのスイッチを切った。気のせいじゃなければ最後の言葉は私じゃなく高柳さんに向けていた気がする。


本人が聞いてるとわかった上で『悪魔』や『掛け値なしの鬼』と言ってのけるとは…………。誰に対しても変わらずに嫌味を言う真嶋の不遜な態度に、乾いた笑いが溢れてくる。最後の方なんて脅してなかった?



「さて、もうすぐ人が来ますので後の対応は一旦任せてここを出ましょう。」
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