今夜、シンデレラを奪いに
眉間にシワを寄せた夏雪を不思議に思いつつも遊歩道を進んでいくと、見渡す限り白い花の絨毯が敷き詰められた景色に目を奪われた。



「見て見て、すごい綺麗！」


遠くに見える青い海と白い花のコントラストが美しい。


「雪景色みたい。この花好きだなぁ………何ていう名前なんだろ。」


「あなたは花の名前に疎いから、そういう恥ずかしい質問をする」


「何よそれ、この花は名前知らなくても恥ずかしくないと思うけど！」


「答えるこちらが恥ずかしい質問という意味です。

これは夏雪草、英名はスノウ・イン・サマー。透子の言う通り、夏に降る雪に見立てられる花ですね。」


予想外の答えに驚いて「夏雪の名前はここから？」と聞くと、困ったように「好きな花から名付けたそうです。」と答えてくれた。


夏雪の名前の花があるんだ…………。

人並外れて美しい彼の存在をどこか幻想のように感じていたので、実在する花が由来と聞いて嬉しかった。雪は溶けてしまいそうだけど、一面に広がった花は美しいと同時に生命力に溢れている。


「夏雪草かぁ。遠くから見ると幻想的で綺麗なのに、近付くと案外素朴で可愛いね、夏雪。」


「…………答えづらいです。含みを持たせないように。」


照れて眉をしかめる夏雪と、彼と同じ名前の花が一面に広がる風景を同時に眺められたことが堪らなく幸せに思えた。

今後どれだけ時間が流れても、この瞬間を決して忘れないだろう。
< 124 / 125 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop