今夜、シンデレラを奪いに
「睡眠不足が続いていただけです。大したことはありませんので」


「酷い熱だから言ってるんでしょう!住んでる所は実家なの?一人暮らし?」


「一人、ですが」


「じゃあウチに来て!そんな高熱で一人で寝てたら危いよ」



「…………馬鹿だとは思ってましたが本気の大馬鹿ですね。

恋人でもない男を連れ込むことについて、少しは自分の身を案じてください」


真嶋が険しい顔をしているけれど、気にせず通りを走っているタクシーを探す。



「真嶋がわざわざ下品でガサツな私に手を出すわけ無いでしょ!

言っとくけど、私も襲わないから安心しなさい」


「どういう思考回路ですか」


「つべこべ言わずに、病人は大人しくする!」


ちょうど通りかかったタクシーに強引に押し込んだら、真嶋が勝手に行先を告げた。


「世田谷区×××へお願いします」


ウチの住所とは関係ない場所なので、「それどこなの?」と確認する。


「実家です。矢野さんの部屋に二人というわけにはいきませんので」


「なーんだ、実家が近いならそう言ってよ。

じゃあ私は家に帰るから駅で下ろして」


鞄を掴んで運転手さんに声をかけようとすると、何故か止められた。


「看病しようとしてくれたお人好しの上司を一人で帰すほど、無作法ではありません。

矢野さんもお連れしますよ」



はい?



実家?



終電間際の時間帯にいきなり?





「待った、待った!

行けない行きたくない無理無理!!」


お酒も飲んでるし、泣いて化粧も崩れてる。夜中にこんな状態の女を連れて帰ったら、真嶋のお母さんが卒倒してしまうに違いない。



「……夜分急にすみませんが、少々体調を崩しまして。
……いえ、特に問題ないです。それからゲストルームも一室準備を。」



必死に訴えてるのに、真嶋は人の話も聞かずに電話してる。


「親に敬語を使って話すような上品なおウチになんて行けないってば……」


「違います。両親ともに事業で忙しいので、家にいるかどうかも定かではなく。

特に気にすることは無いですよ」
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