今夜、シンデレラを奪いに

4 一夜限りのシンデレラ

気にすることないって……一体これのどこが??



真嶋の実家は荘厳な日本家屋だった。門をくぐると石畳の道が奥へと続いていく。


和風庭園がごく控え目にライトアップされているのが上品だ。美しく剪定された植栽を横目で見ながら歩いていき、それでも玄関には辿りつかないほど敷地が広い。


「私は場違いだから帰った方が……。どう考えても私には敷居が高いよ」


「今さら帰られると面倒なんでやめてください。分家なんで気楽ですよ」


分家?


本家と分家があるという時点で、私の生活圏とはかけ離れてるんだけど。


私の緊張などお構いなしに真嶋は玄関の引き戸を開けて、人の良さそうな恰幅のいい女性に出迎えられている。彼女の歳は多分、私の母親と同世代ぐらい。


「まーーーーっ、夏雪さん!お久しぶりですねぇ。

少し痩せたんじゃないですか?」


「小日向さんはいつもそう言うけど、変わってないですよ。」


二人は親しげだけど、会話の様子から親子っぽくは見えない。小日向さんという方は「いつ拝見してもお釈迦様のような面差しでいらっしゃいますねぇ」と感動していた。


小日向さんの視線が私に向けられたので、慌てて姿勢を正す。


「わたくし、矢野透子と申します。

真嶋の、……真嶋さんの上司をしております。本日は夜分にお邪魔して大変申し訳なく」



「上司の方でいらっしゃいますか!!

まぁ……こんなにお若い女性が……」


小日向さんが驚愕している。真嶋との関係を誤解したらどうしようとは思っていたけど、上司という部分に驚かれるとは思っていなかった。


「いえ、少なくとも真嶋さんよりは歳上ですから」


と軽い調子で返したのに、小日向さんの態度が急に堅くなった。


「私としたことが、玄関先でお引き留めして誠に失礼を致しました!すぐにご案内させていただきます。」


正座して頭を下げられたので、恐縮して私も膝を折る。「お構い無く」と伝えても小日向さんの態度は変わらないままだ。



「お疲れの所、足をお運び頂き誠にありがとうございます。只今、御主人様も奥様もあいにく御不在ですが、どうぞおくつろぎ下さいませ。

……夏雪さんも!大事なお客様なら先に仰って頂かないと!!」


彼女から「大変だぁ!」という声が聞こえてきそうなくらいに焦っているので、「待って下さい」と全力で引き止める。


「ひとまず、真嶋さんを早めに寝かせてあげてください。平気そうにしてますけど酷い熱が出ているようです。

私は偶然居合わせただけなので、どうかお気遣いなく」
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