優しい音を奏でて…

その1ヶ月後の2月14日、私は手作りのチョコを用意して彼を待っていた。

約束をした会社近くのカフェでミルクティーを飲んで待っていると、彼が来た。


「遅かったね。仕事忙しかったの?」

無言だった彼に、私からチョコを渡すと、彼は、

「いらない。
………別れてくれないか?」

と言った。

初め、何を言われているのかよく分からなかった。

「何で?
私、何か気に触るような事した?」

「カナじゃダメなんだ。
他に好きな人ができた。」

涙が溢れる私に、彼は触れることすらせず、

「指輪、返してくれる?」

と追い討ちのように言った。

私は、もう何の抵抗もできず、無言で薬指から指輪を抜き取ると、彼の前の机の上に置いた。

彼は、その指輪を受け取ると、

「カナ、今までありがとう。幸せになって。」

そう言い残して、コーヒーも飲まずに出ていった。

26歳の誕生日、私は2度目の失恋をした。



3週間後の3月初旬、彼が胃潰瘍で入院したという噂を聞いたが、私は見舞いに行く事もなく、彼が欠勤している中、3月末日で会社を辞めた。



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