ダドリー夫妻の朝と夜
『わたくしのこと、愛していらっしゃらなくても構わないのです。でも、半年も一緒に暮らしていて、お会いするのが朝食と、わずかな夜会の場だけだなんて、それで本当に夫婦と言えましょうか』

 エミリアは、そう言った。

『それとも、もう……他にいい方がいらっしゃるの?』

「君以外に、わたしにとって女性は存在しない」

『アーサー様の妻は、わたくしでしてよ? あなたにとっては、不本意でしょうけど』

「君を妻にしたのは、わたしがそう望んだからだ。君以外にいないと」

 アーサーは、エミリアの目を見つめてそう言うと、誓いのキスを授けた。結婚式のときのようなかすめる口づけではなく、今度はエミリアもはっきりとアーサーの唇の感触を感じた。

「わたくしも、アーサー様だけです。ずっと……ずっとお慕いしておりました」

 エミリアの閉じた瞳から涙がこぼれ落ちると、アーサーはそれを柔らかなキスで吸い取った。

「ああ、エミリア……」

 耳元で、アーサーが囁く。

 エミリアはうっとりと、その身を硬い肩に預けた。


 この声が聞きたくて。一言でも多く聞きたくて。


 毎朝、起きた瞬間にはエミリアはアーサーのことで頭がいっぱいだった。

 苦手な早起きも、アーサーに会うためにがんばった。ふわふわとまとまらないストロベリー・ブロンドをくしけずり、朝食にふさわしい清廉さを保ちつつ、さり気なくめかし込んだのだのは、どれも夫に少しでも良い自分を見てもらいがためだった。

 たとえ、夫の視界に入っているのかいないのかもわからない日々であったとしても。
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