ダドリー夫妻の朝と夜
 未知の経験に、エミリアは考えることを放棄した。

 アーサーに任せておけば、大丈夫だ。お母様も家庭教師のミセス・マクレーンもそうおっしゃっていた。元より、アーサーが望むなら、エミリアはなんだってしてあげたかった。

 それに、なんだかとても気持ちいい。

「アーサー、さま。すき」

「……エミリア」

 なんでも良かったのだ。アーサーが応えてくれるのなら。

 アーサーが与えてくれるわずかな息づきの合間に、エミリアは何度もアーサーの名を呼んだ。アーサーは、律儀にも毎度それに応じた。

 自らを話させたいのなら、まず自分が話すようにと言ったことを証明するように、エミリアが言葉を発せば、アーサーもエミリアの名を呼んだ。

 もっともそれは、エミリアが意味を成す言葉を話せている間に限られたが。

 エミリアがすすり泣くような声を上げるのがやっとになると、アーサーはただ息を荒げるだけになった。元々無口な男である。

 ただ、それでもエミリアはアーサーの言葉が欲しかった。

 すがるような視線を上げると、アーサーは必ずそれに気づいてくれた。

「キスしようか?」

 エミリアは、コクコクと頷いた。

 本当は、何をしてほしいのか、自分でもよくわからなかった。

 けれど、アーサーが束の間、動きを止めてエミリアを抱き寄せ、柔らかく深くキスしたとき、これが欲しかったのだと思った。

「気に入った?」

「ええ、とても」

 アーサーは目を細め、妻の気に入りを再度入念に与えてくれた。
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