シェヘラザード、静かにお休み
親に言われただけの婚約者。そこには何の拘束もなく、幼い頃に会ったきりだった。
会わなくなって、大人になって忘れてしまった。
「忘れた。女だった」
「何当たり前のこと言ってるの? 頭大丈夫?」
「お前に頭の心配をされるとはな」
シーラはむくれた顔をして、つまんない、と言ったきり黙った。
つまらなくても、事実はそれで終わりだ。話をした内容も言動も顔すら思い出せない。
「お前はどうなんだ」
ルイスは初めてシーラに話しかけた。見上げた青い瞳がきらりと輝くのが分かる。
「いるわけないでしょう」
それから、とても簡潔な答えが返ってくる。