ドクター時任は恋愛中毒


「キレイですね……」

「そりゃ、汚いクリニックじゃ入りたくもならないからね。さ、中へ」


そう言って、航河さんが私の背中をそっと押したそのとき。私たちが乗ってきたのとは別のタクシーが背後で止まり、その中から慌てて出てきた人物に、私も航河さんも驚いてしまう。


「る、類さん……?」

「あれ? もしかして、後つけてきたとか?」


目を丸くする私たちに構わず、不機嫌そうにつかつかと歩み寄ってくる類さん。そして私の腕を掴んで自分の方へぐいっと引き寄せると航河さんに向かって言い放つ。


「栄養部に行ったら、怪しい男とすでに帰ったと聞いて……。そんなことより、誰の許可を得てコイツを連れ回しているんだ」

「誰って……真帆ちゃん本人にだよ。問題ないでしょ?」


不敵な笑みで応戦する航河さん。

確かにその通りなのだけど、類さんが怒っている姿を見ていたら、軽い気持ちでついてくるんじゃなかったかもと後悔の念が湧く。


「あの、ごめんなさい、私……」


謝りかけた私を制するように、類さんがいっそう険しい顔になる。そして口を開くや否や。とんでもない爆弾発言をした。


「人の妻に手を出すな」


へ……? 類さん、今、なんて言ったの……?

ぽかんとして見上げた類さんの横顔は、いたって真面目だ。しかし航河さんのほうは、私と同じ反応で、唖然としている。


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