漢江のほとりで待ってる


その頃、椎名は由弦の車を捉えた。

「あ!あれだ!由弦坊ちゃんのナンバーだ!」

走りながら、幼い頃の慶太と過ごした日々が蘇る。父である弦一郎に構ってもらえず淋しそうにしてる姿、笑って自分に抱っこをせがむ姿。

―――― お願いあなた!慶太のために……

そして雅羅の声が頭を過る。 

椎名はどんどんスピードを上げって行った。由弦の車の背後にぴったりと付く。

車線変更しながら逃げる由弦。それを執拗に追う椎名。

また背後を捉え、そのままさらに加速し、

「慶太――――っ!!」

そう叫びながら由弦の車に突っ込んだ。

さらに横から出て来た部下の車が、由弦の車の助手席側に突っ込んで来た。

ぶつかった由弦の車は、勢いのまま歩車道境界ブロックを乗り上げ、スピードはそのままでガードレールにぶち当たり止まった。

椎名はぶつけた衝撃で気を失っていたが、顔を上げると、大破した車が煙を上げて停まっていた。運転席側にガードレールがのめり込んでいた。

そして車を降りて、由弦の車に近付いた。

見ると、頭から、全身血まみれで気を失っている由弦がいた。

それを見て急に椎名は怖くなった。

咄嗟に、大破した車から由弦を何とか救い出し、離れた場所に寝かせた。そのあとすぐ車は爆発を起こした。

その状況にも一瞬声を失くした。

―――― もう一足遅かったら……

我に返り息を荒げながらも、

「ゆ、由弦ぼっちゃ……坊ちゃん!由弦坊ちゃん!」

声を掛けたが応答はなかった。

すでにぐったりしていた。


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