漢江のほとりで待ってる


椎名がそのBarに着いた頃にはもぬけの殻だった。

「一足遅かったか……」椎名は呟いた。

そして雅羅に報告した。

すると、

「何とか彼らの居所を突き止めて!!でないと慶太だけじゃない、私達まで全てを失ってしまう!いいえ!高柳全てが台無しよ!!そうなる前に、何としても、彼の安否なんてどうでもいいから、食い止めて!彼さえいなくなれば、後継者は慶太になる!そうなればどんな噂でも揉み消してやるわ!だから何としても食い止めて!お願いあなた!慶太のために……」

雅羅の尋常でない言葉に椎名は覚悟を決めた。

全ての部下に雅羅の意志を告げて、全力で捜索するよう命じた。

それから椎名もBarを出て、由弦の捜索に加わった。

そこへ部下から「一二三号線の交差点を抜けて大通りを走行中!」と連絡が入った。椎名は急いだ。

由弦は二人がBarから出て、一条のマンションへ移動すると予想し、追手が自分一人に来るように、二人がいる場所からえ出来る限り遠く離れて走り続けていた。

そして一条に電話した。

「どうか彼女を頼む。必ず戻って来るからと伝えてくれ」

「高柳!彼女に代わるから」

「いや、声を聞いてしまうと気持ちが揺らぐから」

「高柳!もしもし?高柳!どこにいるんだ!おい!」

プーッ、プーップーッ……

「切れた……」

「由弦は何て?」

胸が張り裂けそうな思いで珉珠は聞いた。

「あなたのことを頼む、必ず戻って来るって……」

珉珠は居ても立っても居られなくなり体が震えた。

―――― 由弦っ!


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