漢江のほとりで待ってる

「由弦!待って!」

由弦の前に立ちはだかった。

「何か?」

とても冷たい目で、珉珠を見つめた。

その視線に思わず逸らしてしまう珉珠だったが、すぐに向き直して、

すぐに慌てて、

「これを」

珉珠は何かを差し出した。

「……!!」

見ると、あの時の時計だった。

修理されて、前のように綺麗に元通りになっていた。

慶太から本社に戻らないか?と、話も持ち掛けられたあの日、珉珠は時計を修理に出していた。

「渡す相手を間違っていませんか?ペアウォッチでしょう?なら、兄貴に渡すべきだ。思う存分、兄貴の時間を束縛してやって?たくさん楽しい時間を共有してください。お幸せに」

そう言うと受け取らず、珉珠を交わして行ってしまった。

二人のあとを追って来た一条、

「気にしないでください。あいつも色々環境が変わって戸惑っていると思うんです」

「えぇ」

珉珠は何となく違和感を覚えた。

「由弦はまだ、記憶は戻ってないんですよね?」

「はい」

「ならどうして?こんなに気まずいのかしら。彼の気持ちが分からない。それに、どうしてペアウォッチって分かったのかしら?初めて見るものを渡されたら、大抵の反応って、「これは?」って聞いたりしませんか?まるで自分のものって分かってたような口調だった」

「さ、さぁ、どうしてでしょう。あいつ変に勘がいいから」

苦し紛れに一条は言った。

「そんなものかしら……」

不思議に思う珉珠だった。

一条は、本当のことを知っているだけに、彼女に言えないのが苦しかった。

< 217 / 389 >

この作品をシェア

pagetop