漢江のほとりで待ってる
「高柳社長、何のお力添えも出来なくて申し訳ございませんでした。せっかくの慶太君の社長就任も無駄骨に終わってしまいましたね。やはり、高柳会長が目の黒いうちは、勝手な真似はしない方が。今日の総会で分かりました。あの椿氏を味方にされたくらいなんですから」
臨時株主総会終了後、株主達が会場から出てくる中、株主の一人であり、古くから付き合いのある、区議会議員の川野氏が言った。
「……」俯く弦一郎。
慶太は、たった一週間の社長就任だった。
それも社長として、玉座に座ることもなく、一度も働らかず、糠喜びに終わった社長就任。
悲愴感漂わす二人を尻目に、
「おめでとう!」 「よくやったな!」歓喜の声が飛び交う中に由弦はいた。
それを恨めし気に見ていた慶太は、会場を出る間際、
「このままで済むと思うな!」
由弦に向かって吐き捨てた。
すると、
「お前ごときがあがいた所で、どうにもならんぞ」
弦吾が冷めた目で慶太に言った。
慶太をなだめて、その場を出ようとした弦一郎の前に、椿氏が歩いて来た。
慌てて、弦一郎は、挨拶をした。
「お久しぶりです」
「こんな形で君と再開するなんて残念だよ」
厳しい顔つきで、弦一郎の顔も見ず、通り過ぎて行った。
弦一郎は何も言い返せないまま、慶太を連れて出て行った。
全ての人間が出払ったあと、静まり返った会場で、由弦は一人大きなため息を吐いた。
まさに、後ろ盾がモノ言った結果だった。
どこの世界も金や権力が必要なんだと、改めて強く由弦は思った。