漢江のほとりで待ってる
珉珠が目を覚ますと、隣に由弦がいない。
起きて寝室を出ると、由弦は、薄暗いリビングルームのソファに座り、少しカーテンを開け、白み始めた窓の外をぼんやりと見ていた。
珉珠は由弦の姿を見つけ安堵した。
そして、座っている由弦の後ろから抱き締め、
「眠れないの?」
そっと耳元で囁いた。
「ううん、さっきまで眠ってた」
「そう?でも起きるにはまだ早い時間だわ。ベッドに戻りましょう」
珉珠は由弦をベッドに連れて行った。
珉珠の腕の中は心地よかった。
遠い昔に忘れかけていた、温かい何かを思い出させてくれるような感じだった。
微睡み始める由弦。
由弦は、現実にも引き戻されず、夢にも苦しめられることなく深く眠った。
「起きて~由弦。もうお昼過ぎよ~」
耳元で誰かが呼ぶ。
「由弦~起きて。顔洗ってご飯にしましょ~」
珉珠に起こされ、洗面台に連れて行かれた。
そして一緒にテーブルを囲み、食事をする。
「ねぇ?由弦、あなたはテーブルマナーを誰に教わったの?私ね?あなたと初めて一緒に食事した時に感動したのよ?なんてスマートなのかしらって。躾がされてるって感じたの。特に作法っていうものは、幼い頃からずっとやりながら、日々備わって行くものだし、にわかでは身に付かないものだから」
「あぁ、三才から五才まで両親共に一緒に暮らした時期があって、三才になった時から、急に、鉛筆の持ち方を母さんがオレに教え始めたんだ。その時からお箸の持ち方、座り方、いわゆる食事作法をうるさく言われるようになって。同時進行で西洋式の食事作法まで。ホント厳しかったんだ。手もよく叩かれて、父さんまで参加して来てさ?父さんも母さんもオレのことなんか嫌いなんだ!ってその時は本気で思った。でも大人になって、その意味がやっと分かるようになって、ホントに今は感謝したいくらいだよ。週末しか父さんは帰って来なかったけど、忙しいからだと思ってたし、それでも何だか幸せだった」
「そうだったのね。テーブルマナーは、ご両親の躾の賜物だったのね。短い間にちゃんと愛情は受けてたのね」
珉珠は、自分の中の謎が解けたような気分だった。
由弦の体は、珉珠の支えもあって、少しずつではあるが、回復して行った。
前よりも、手が動くようになり、食べる量も増えて行った。
珉珠が話し掛ければ、また他愛もない会話の中でも、軽く笑顔を見せながら答えた。
―――― あ!由弦が笑った!
珉珠の胸は、幸せに弾んだ。
久し振りに二人、穏やかな昼下がりを過ごした。