漢江のほとりで待ってる
それからキッチンで忙しなく作業する珉珠のもとに、電話が鳴った。
出て見ると慶太だった。
今どこにいるか確認の電話だった。
それからしばらくして、由弦が帰る前に、慶太が珉珠の所にやって来た。
入り口で、二人立ち話をする。
「由弦は元気か?体調は?」と珉珠に問い詰める慶太。
「はい、だいぶ元気になりました。食事も食べる量も増えて、走るのはまだ時間がかかるかもしれませんが、普通に歩けるようになりました。でも心の傷の方が深いようで、記憶がなかった自分に苦しんだり、隠さず本当のことを話してほしかったと、言われました。それに自分は生まれて来なければよかったとも言ってました……私も胸が痛いです」
「そうか。申し訳ない。全て私のせいだ。あいつの記憶が無いことをいいことに、由弦から君を奪って、情けない」
「それで今日はどういったご用件で?」
「あ~そうだった、やっと見つけたよ。この私が見つけ出すのに、一週間もかかってしまうなんて」
と慶太は、漢江での捜査にどれほど手を尽くし、どんなに苦労したかなど、経緯を話した。
「ほんとに見つけられたんですね!」
珉珠は驚きと同時に感動した。
「私から直接渡すより、君の方から渡す方がいいと思って」
珉珠の手を取り、由弦の母の形見の指輪を、珉珠の掌に乗せて握らせた。
ちょうどその時、由弦が帰ってきた。
由弦の目に映った光景は、珉珠の手を握りしめる慶太。
―――― ……!!
事故の時のように、車がぶつかって来たかと思うほどの、胸に衝撃が走った。
コンビニから歩きながら食べていたアイスを、思わず手から離して落としてしまった。
そして、袋に入った炭酸水も置き去りに、そのまま振り返りその場を立ち去る由弦。
慶太はキョトンとしている。
珉珠は、自分の握られた手を見て、また、慶太の腕時計が目に入り、由弦が勘違いをしたことを理解した。
「あ~、迂闊だった!」
「まかさ由弦は何か勘違いをしたのか?」
「はい、おそらく。副社長、手を離していただけますか?まさか、わざと?その時計も?」
「ま、まさか!今更そんなことしてどうしようと言うんだ!」
慶太は、珉珠の掌に指輪を乗せると、素早く手を離した。
受け取った珉珠は、慌てて由弦のあとを追った。
飛び出した由弦は、出来るだけ遠くへ逃げたかった、けど、前のように走ることが出来ず、懸命に早歩きで、マンションを出た。
―――― 何で!?わざと?よくも一緒に暮らそうだなんて!兄貴と部屋で会うのをオレに見せつけようとして、オレを強引にあなたの部屋に連れて行ったの?オレはまだ傷付けられなきゃならないの!
裏切られた気持ちがまた蘇る。