漢江のほとりで待ってる

「潰す!」と決意してから、ある所に訪れた由弦。

自分をこんな目に遭わせた、張本人に会うため、事故後初めて、椎名氏と顔を合わせた。

「元気そうですね」と冷ややかな顔付で挨拶をした由弦。

「ほんとに申し訳ございませんでした。私が言うのもなんですが、お加減いかがですか?」

「なら聞かないで下さい。オレのことなんて興味ないでしょ?あなたが興味あるのは、兄貴と雅羅さんのことだけでしょ?」

由弦は、見下すような目付きで、椎名氏の様子を伺う。

「いえ!そんなこと」

今までと雰囲気の違う由弦に、椎名はうろたえた。

「あなたはいつも兄貴よりだった。そりゃ当然だろうな?父親なんだから!」

「ご存じだったんですか!?」

「えぇ!事故に遭う前に知ってしまいました。心配しなくても、慶太坊ちゃまはお元気ですよ!未だ平気で彼女に会えるんだから……」

「由弦坊ちゃん……」

「一緒に暮らしていた期間、父さんが仕事でいない時間は、あなた達親子三人、楽しそうに過ごしてましたよね?オレを無視して、三人だけで出かけた時もあった。いつもオレは疎外感がありましたよ。知らん顔でしたもんね?雅羅さんと一緒になって、まるでイジメだ。そんなことも覚えてないでしょうね?やった方は何でも忘れるんですよ。やられた方はいつまでも覚えている。いや正確に言うと、普段は忘れているんだけど、何かの拍子に思い出すんです。その時は、とてもやり切れなくなる。それが、やった張本人が何もなかったように、幸せそうにしているの見るととてつもなく哀しくて辛くなる。そのあと怒りが込み上げて来るんです。あなたには一生分からない感情だ。あなたは執事失格!執事ではなく、兄貴の父親だった。あなた達がオレに何をしようと、子供のオレが何を言っても誰も信じない、いや、オレは何も言わないと踏んでた。だから大の大人がわずか五才の子供相手に嫌がらせをする!っント!バカにされたもんだ!」

「……」

「オレは高柳グループを潰すつもりです!」

「……!!」

「悲しいことに、我社から犯罪者を出したのは紛れもない事実です。この事実を見過ごすことは出来ない」

「坊ちゃんの言う通りです」俯いたまま椎名は言った。

「良い人ぶらないでください!あなたさえオレにあんな目に遭わせなければ、オレはここまで自分の恨みやひがみを、露出させることはなかった」

「本当に申し訳ございませんでした」

「今さら謝られてもね~。本気で思ってんならオレの体元に戻してくださいよ!戻してくれよ!!高柳から出て行ってやるから!財産もいらないから!あんたの息子に全てくれてやるから、親子三人あの豪邸で住まわせてやるから、頼むから事故前の体に戻せよ!!」

「すみばせん……」泣いて詫びる椎名。

「父さんが、あなたをどう思っていようと、そばに置こうとオレには関係ない!知ったことじゃない!オレよりあなたの方が、親父とは付き合いも長いし?オレは他人同然だから」

由弦は慶太と珉珠が会っていた場面を思い出す。

ガラス越しでは、肩を震わせながら椎名が泣いている。

「前向きに生きようとすると、必ずあなた達の誰かが邪魔をする!せっかく忘れようとしてたのに!顔見たら思い出してしまうだろ!何であなたみたいに兄貴は隠れててくれないんだ!!大人しく牢屋にでも入っててくれればよかったのに!」

椎名に今までの気持ちを、全てぶちまけた由弦だった。

一呼吸置いた由弦は、

「オレは高柳グループを潰す!あなた達一家も潰してやる!オレの味わった苦痛を味わうといい!」

そう言うと由弦は出て行った。

残された椎名、返す言葉などあるはずもない。

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