漢江のほとりで待ってる
それから久しぶりに本家に戻った由弦は、だだっ広い豪邸に、たくさんの使用人がいる中、リビングの窓辺に寂しそうに佇む、祖父、弦吾を見つけた。
その姿を見た時、由弦の胸が少し痛んだ。
情に流されぬよう気持ちを振り切り、これから自分がやろうとしていることを、弦吾に伝えた。
すると、
「お前が何をしようとワシは止めようとは思わん。ワシの残りの人生はお前に預けたんだから。ただ、個人的な理由で、人の人生まで奪うようなことはするなよ。高柳グループは約七万人という従業員がいる。その人達には家族もいる。もし会社を潰すようなことをすれば、そこで働く社員達の家族まで、路頭に迷わせることになる。お前とは無関係な人達を、もし苦しめるようなことになれば、ワシも黙ってはおれん。確かに、慶太達への復讐に手助けをしたのはワシだ。お前をそこまで駆り立てるように追い込んだのもワシだ。しかし、お前だから、由弦だから、今以上に高柳グループの事を考え、発展させてくれるだろうと思って、お前を社長にしたんだ。お前ならその意味が分かるな?」
静かに、弦吾は語った。
また、
「ワシは一人でも構わん。お前の生きて来た孤独な人生を償うつもりでここにいる」
そう言った。
「お爺様、あまりにもその言い方は都合が良すぎます。高柳を守るために?世間体のため、体裁を守るために、オレや母さんは犠牲になった。七万人の従業員とその家族達と、オレと母さんの価値はどう違うのでしょう。オレなら、オレが当時のお爺様の立場であったとしても、どちらも守り抜いたと思います。お爺様の言い分はただの身勝手な言い訳でしかない。お爺様が今独りなのは、今までの強欲に生きていたつけが回って来ただけだ。もし淋しいと感じるんなら、それが罪の償いと噛み締めて、残りの人生生きてください」
由弦の言葉は弦吾の胸をえぐった。
人の人生や命に、価値の有無などあるはずもないのに、なのにあえて自分は優劣をつけてしまった。
人の人生など、誰も思い通りになんて出来ないのに、唯一高柳の、自分の血統である孫の人生を左右し狂わせた。
そしてその子の母親の命を奪った。
許されるはずもないのに、苦しめた子に対して、正論をかざした自分自身を、弦吾は恥じた。
過去に戻れるなら、もう一度やり直し、由弦と由弦の母親を守ってやりたい。
二度と出来ぬ償い、一生残る過去の罪が、老いた背中に覆いかぶさった。