漢江のほとりで待ってる

日が変わり、珉珠と慶太のことを引きずったまま、社長就任して初めて、由弦は会社へ出向いた。

―――― 兄貴の時には派手な就任式があったよな。何で父さんはオレを呼び戻したんだろう。こっちへ来たときは、兄貴が後継者でも何の不満もなかったのに……

由弦が休んでいた間、従業員達にも世間にも、自分が休養していた理由は隠していた。

社長代理から一通り引継ぎをし、傘下の企業にも出向き、久し振りのマーケティング部では、かつての仲間たちが、社長となった自分を変わらず笑顔で迎えてくれた。

主要メンバーの一人である仲里が、

「調子はいかかですか?」と自分の体を気に掛けて、声を掛けて来た。

会社では、唯一彼女だけが自分の体のことを知っている。

辛い時、一番支えてくれた人。

また、日本に戻って来て、初めてマーケティング部に所属した時、色々とサポートし力になってくれた、江南課長。

自分に憧れ、人や噂に左右されやすい所はあったが、とても真面目で前途有望な宇海、情報屋で!?オシャレ大好き自由人、みるみるうちに成長を遂げた甲斐。

自分は、彼らの笑顔も恩も、夢や希望も潰そうとしている。

彼らだけではない、弦吾の言うように、自分を支えてくれている、いや高柳を支えてくれている人達がいる。

―――― オレは、この人達を巻き沿いにしようと言うのか!?

本社に戻った由弦は苦しんだ。

ふと我に返り、

「青木さん、今日のスケジュールはどうなってる?」

と内線で確認をすると、「本日のスケジュールですが―――― 」スピーカーから彼女とは違う声が聞こえて来た。

ハッとして気付き、何気に珉珠の名前を呼んでる自分がいた。

―――― そうだ、彼女は辞めてしまったんだ。

珉珠はもういない。

傍で支えてくれる人はいない。

キリっとした目付きで、カッコよくオフィスを歩き回るあの人は、ここにはいない。

会社で一目見られたら、それだけで嬉しかったのに、傍にいるだけで幸せだったのに、彼女がいた頃のことを由弦は思い出していた。

椅子にもたれ、その寂しさに打ちひしがれる由弦。

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