漢江のほとりで待ってる
それから間もなく、由弦は配置転換をする。
まず、自分の味方を作るため、マーケティング部の課長だった江南を、その部署を統括する部長に就任させ、課長に仲里を任命。
甲斐は例の企画のプロジェクトリーダーに。
他の部署や、傘下の企業にも、配置転換を行った。
そして、大幅な人員整理のため、高柳グループ全体に、転籍の辞令を出した。
この転籍に関しては、転籍の人事を受ける従業員に対し、慎重な調査と詳細な説明を繰り返した。
高柳グループの経歴に傷が付いたことに違いはなく、はっきり言って何一つ信頼回復はされていなかった、にもかかわらず、前社長だった、弦一郎は、あえて慶太を後継者に推した。
自分に対して、父である弦一郎は、何も声を掛けてくれず、一体なんのために日本から呼び戻したのか、慶太のためなのか、仮に自分のことを考えていてくれたにせよ、あまりにもバカにし過ぎている、それこそ、実の父親から、愛人の子蔑視されているようにさえ感じるようになった由弦だった。
ならば、高柳のためではなく、小田切グループに、買収、あるいは吸収合併するにせよ、高柳の汚名返上してから、綺麗な形で経営権を握りたいと思い、由弦は、高柳グループの中で、まず事業の再構築のため、リストラという改革をはじめた。
無駄なものは排除して行く。
しかしこの改革はやはり、どんなに話し合いを繰り返しても、従業員達からの不満は減らなかった。
「無能な社員でも退職金を出してやってるってか!?」、「出向ならまだしも、転籍が嫌なら、進んで希望退職というのか!?」、「従業員を馬鹿にするな!」など、声が相次いだ。
ある時、話し合いの場で、
「転籍をさせるにも、それなりに納得させた上で辞令を出すべき!元居る場所と契約関係を終了させるのだから、それなりの保障をすべき!」
とある従業員が言い出した。
すると、由弦は、
「だから、何度もそれはお話しています。それなりの保障と言われましたが、その従業員に見合った、能力に応じて退職金を支払わせて頂いております。その金額がご不満と言うことであれば、言わせて頂くなら、それがあなたの能力の値段ということになります」
「……!!」
「現場からの声、調査によると、あなたが任されていたある案件に対して、あなたは速やかに対応できず、未だ手付かずでいるのはなぜですか?そのせいで、計画が遅れている。分からないのなら、なぜ周りに頼らないのですか?分からないまま延々と放置させるつもりでしたか?こちら側はもはや、あなたにそれすらも解決を問わず、転籍の辞令を出しました。ちゃんと任意で。その上で退職金も出すと言ってるんです。前回の話し合いの場で、何を聞いていらっしゃったのですか?なぜ今になって、保障などと問題を荒立てるのです?他の皆さんも、高柳グループに所属しているからと言って、まさか安心なんてしてませんよね?もはや高柳という名はブランドの価値もない。言葉は悪いが、目の前の問題も解決できない人間は不要!これはどこの企業も思うこと。仕事も出来ない人間に払う給料なんてない!無能とみなしたものは排除していく。それが嫌なら結果を出して下さい。今は土下座して済む時代じゃない。私だってリストラなんてしたくない。分かっていただけますね?」
副社長をやっていた、慶太顔負けな、由弦は、理路整然と話し、相手に隙を与えず、精神的に相手を追い込んだ。
しかしながら変わらず、二十代や女性からの指示は多く、「理にかなっている」、「自分たちにも出世の希望がある」と由弦のやり方は賛否両論だった。
思えば、一番はじめは、あの復讐のために始めたクーデター。
弦一郎や慶太を引きずり下ろしたかった。
でもそれだけでは、高柳という名前がまだ残っている。
出来ることなら、高柳と言う名前を抹消してしまいたいと、由弦はずっと思っていた。