漢江のほとりで待ってる

アトリエでは、ある日を境に慶太の様子がおかしいことに、母である雅羅が気が付いた。

雅羅が弦一郎に相談して、また弦一郎も気にしていたようで、尋ねてみると、何も言わない。

むしろ、「気にしないでください」と寄せ付けないようだった。

はじめのうちは、二人を避けていたものの、慶太の中で、気持ちが耐えられなくなったのか、自分から話し出した。

珉珠から、「これ以上彼を苦しめたくないので、二度と電話をして来ないでください―――― もう会うこともないと思います」と言われた言葉が頭から離れずにいると言う。

その言葉に苦しむ理由は何なのか、まだ珉珠を好きでいるからショックだったのか、それとも、由弦に対しての罪悪感からか、それが違うなら何に苦しんでいるのか、弦一郎はさらに追及した。

すると、

「今までにも、同じような場面があったと思うのに、それに、すぐ全て修復できると思っていたんです。でもなぜか今回だけは、自分がこんな立場になってみて、本当に、全てを失ったような気がして。由弦も二度と兄貴と呼んでくれないのではないかと。その都度思っていた以上に、今更ながら自分のして来たことを悔いているんです」

と慶太は、どんよりとした暗い空気を漂わせ答えた。

この時弦一郎は、慶太が少し成長したと感じた。

それと、自分も同じ思いでいると話した。

「青木君には、兄弟二人の、板挟みなことをひたすらさせて、本当の気持ちを抑えつけさせて来た。本来なら笑って由弦と一緒にいたはずなのに。彼女には謝っても謝り切れないことをしことをして来た。出来ることなら自分の口で謝りたい。それと由弦には生まれて来なければよかった、生きている価値がないなんて思わないでほしいと伝えたい」

そう話した。

「ならば、こんな所でくすぶってないで、由弦さんや珉珠さんに謝罪をしに行来ましょう。例え許してもらえなくても、全て元通りなんていうのは無理だとしても、人としてすべきことはすべきだわ」と雅羅が言い出した。

まず越えなければならない壁は、小田切邸を訪ね、義父、小田切仲親に会うこと。そこに由弦がいるから。

義父との関係も修復しなければならなかった。

行ったとしても、門前払いの可能性もある。

弦一郎一人、義父に会うのを決め兼ねているようだった。

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