漢江のほとりで待ってる

そんな弦一郎と雅羅の二人を見ていて、慶太にも心境の変化が生まれ、あえて寄り付かなかった、本当の父である椎名氏に会いに行った。

向かい合う、ガラス越しの距離が、妙に今の二人の関係性を表しているようで、返って冷静でいられた。

「お元気でしたか?椎名おじさん。父上と母上は小まめに来ているとか」何とも照れくさげに、慶太は話し掛けた。

「はい!私は見ての通りです。来てくださいまして、何と言っていいか、ほんとに嬉しいです。坊ちゃんこそ、お元気でしたか?」

椎名は分かっていた、弦一郎と雅羅に気兼ねして、来られなかった慶太の持ちを。

「ええ、私は相変わらずです」

照れくささから、沈黙の時間が出来た。

「思えば、私は幸せ者でした。いつも両親の傍で愛情をいっぱい受けていた、しかも二人の父親から。なのに、愛されていないだなんて。いったい何を贅沢なことを言っていたのやら……」

「坊ちゃん!?」

「何となく、分かってたんです。あなたが私の父親なんじゃないかって。むしろそうであってほしいと思ったこともありました」

慶太は涙溢れさせた。

「慶太坊ちゃん……」

「ありがとうございます!いつも母上と一緒に味方になって傍にいてくれて。なのに今の私は何もない、情けない人間ではありませんか。椎名おじさん、あなたから、とっ……うさんから受けた愛情を、私は返せてない」

「坊ちゃん、今!?」

「父さんが、ここを出たら私が面倒をみます。だから安心して執事を辞めてください。だからその、私も心から罪を償いますから、今度は父として傍にいてほしい。」

「慶太……」

ガラス越しに手を合わせる二人。

—————— そのお気持ちだけで、十分私は生きていける!

この時椎名は、慶太のためにも、また高柳家のためにも、執事の立場に徹しようと心に決めた。

緊張も解れ、心通わせる二人。

今度来る時には、何を差し入れしてほしいかなど、他愛もない話をして、さらに互いの距離を縮めた。

「あ、一週間ほど前、由弦坊ちゃんが面会に来てくださいました」

「由弦が!?」

「はい!私のせいでまだ心を痛めていらっしゃいます。高柳グループを潰すと。どうか由弦坊ちゃんを止めてください!可哀想なほど孤独と闘われています。どうか愛情を分けてあげてください。私の代わりに、私の分も。今恨みしか坊ちゃんの中にはない。あんなに素直でいい子だったあの子を、私は……」

椎名は泣いて慶太に訴えた。

「分かりました!必ず止めてみせます!兄として責任を果たしたい」

慶太は誓った。

< 344 / 389 >

この作品をシェア

pagetop