漢江のほとりで待ってる

それから慶太は、弦一郎と雅羅に「椿先生の所へ行きましょう」と誘った。

訪れた際、あまりの立派さに慶太達でさえ驚いた、小田切邸の趣のある日本家屋造り。

と同時に、緊張も走った。

果たして会ってくれるのだろうか!?

ぶ厚い木の門扉が開き、中へ通され、案内された。

椿氏に辿り着くまで、長い廊下を歩き、いくつもの部屋を通り過ぎた。

そして、一番奥のあの日本庭園が臨む部屋に椿氏が待っていた。

椿氏を前に、あの威厳のある父が、まるで別人のように肩を縮めて小さくなっていた。

弦一郎の足元から、緊張が伺えた。

その緊張は慶太にも伝わった。

張り詰めた空気の中、

「先日は、ちゃんとした挨拶も出来ずに申し訳ございませんでした。あの時は突然だったもので……」

弦一郎が先に口を開いた。

椿氏は黙ったまま、椅子に座った。

「こちらが、私の妻の雅羅です」と弦一郎は、連れて来た二人を紹介し始めた。

「初めまして、妻の雅羅と申します」彼女は一礼した。

「そして―――― 」

「息子の慶太です」

弦一郎が紹介しかけた時、慶太は自ら挨拶をした。

すると、椿氏はちらりと慶太を見た。そのあと、なぜか深い溜息を吐いた。

「とても残念だ」視線を外したまま、椿氏が言った。

三人ともその意味が分からなく、椿氏をしばらく見ていた。

「冷静ささえ失わなければ、ほんとに文句なく後継者に相応しいのに」

慶太の方に向けて、椿氏は発した。

慶太は椿氏の発した言葉の意図が、一瞬分からなかったが、でもすぐ後に、自分に込められた言葉と理解した。

「ほんとに申し訳ございませんでした。高柳の長男としても、兄としても至りませんでした」

慶太は土下座した。

ちらりとそれを見た椿氏。

「そうだな。由弦に劣っているとでも思っていたのかな?何一つ取っても劣ってなどいないのに。由弦から大切なものを奪ったとて、虚しさしか残らんだろうに。勝ち誇ったのはほんの一瞬だっただろう。まぁ、君一人が悪いのではない。きっと環境がそうさせてしまったんだろう。君には今後の活躍を期待しているよ。ただ、今は、由弦が暴走している。それを君は止められるかね?」

「何としても、必ず止めてみせます!止めてみせます!いや、止めなければあいつがダメになってしまう。追い詰めた私の責任です」

「うむ~。さてと?いつまでそこでぼ~っと突っ立ているつもりかね?」

椿氏は弦一郎を見て言った。

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