漢江のほとりで待ってる

弦一郎はピクッと反応した。

何をどう話せばいいか、どこからどのように話していいのかさえ、分からないでいるようだった。

そんな弦一郎に、

「ここまで来れたことは、褒めてやろうじゃないか。それで何しに来たんだ?娘を連れ出した時のあの勢いはどこに行った?」

椿氏は冷静に言った。

「面目ございません……」と膝から崩れ落ちる弦一郎。

それを支えるかのように寄り添った雅羅。

「君が謝ろうと、どう反省しようと、琴乃はもう帰っては来ない。由弦の大事な幼少期から青春時代も。君がどんなに謝罪しようと、私は許すことが出来ない。けど、そんな君を琴乃は愛した。私も、君一人を責められはしない。一人娘だからと厳しくし過ぎたのかもしれない。あの子の心の変化すら気付いてやれなかったから。だが今更!?なぜ謝罪しに、今更なんだ?それにここへ来る前に、君のやるべきことはまず、私ではなく由弦に謝るべきではないのか?父として君は今まで何をして来た?ソウルから戻ってから、由弦に寄り添ってやったのか?今もひたすら逃げているのではないのかね?」

椿氏の言葉は分かっているだけに、胸にグサリと突き刺さった。

椿氏は、弦一郎に寄り添う雅羅を見て、きっと琴乃もこんな風にして、自分の前で彼をかばうんだろと思いながら、その姿を重ねた。

「由弦は今、良心と憎しみの狭間で苦しんでいる。あの子の中には、そのせいで哀しみが溢れ出している。復讐することで自分を保ち慰めている。孤独と闘っているんだよ!君たちのしたことは、決して許されることではない!由弦がそれを水に流し、懐かしく語れるようになった時、初めて君たちは許さるだろう。そんな日が来ない限り、一生無理だ……すでに君は分かっているんだろ?君のすべきこと」

椿氏の言葉で、弦一郎は目の覚める思いがした。

「申し訳ございませんが、私は失礼させていただきます。行くところがありますので」弦一郎は頭を下げた。

雅羅も慶太もそれを見て深々と頭を下げた。

立ち上がった椿氏は、何も言わず、ゆっくりと縁側の方へ歩いて行き、何もなかったように庭を眺めた。

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