漢江のほとりで待ってる


クライアント側で事情を話す由弦。

「一体どういうことですか?うちと決めておいて、今になって延期など!納得行くように説明して頂きたい!ホントに社長の意向ですか?」

「いや~、そうですね、そう取って頂いて結構です。私ども、やはり、大々的に宣伝される方がいいかと思いまして~」

何とも歯切れの悪い、ただの言い訳にしか聞こえなった。

そして「大々的に宣伝」と聞いて、由弦は、クライアント側が大手の総合広告代理店に乗り換えようとしている、もしくはすでに乗り換えたと勘付いた。

「大々的!?お言葉ですが、それならなぜ弊社に依頼されたのでしょうか?クライアントの町田様の意向に沿い、しっかりと提案もさせて頂きました。確かに、広告代理店によっては、メリット、デメリットはあります!でもそれはどこにでも言えることで、その分、うちは専門的な対応もでき、御社により深いサービスを提供致します!プレゼンでも証明致しました通り、あらゆる面を考慮して頂き、弊社を選んで頂いたと理解しております。納得の行くように説明お願い致します」

由弦は引こうとはしなかった。ここまで来るのに、制作チームのみんながどんな思いで作り上げて来たか、それを思うとどうしても引くことが出来なかった。

「とにかく、今回はご縁がなかったと思ってください!私どももそれしか言えません。お察しください。申し訳ございません」

そう言うとクライアントの担当町田は、逃げるように会議室から出て行った。

渋々由弦もその場をあとにした。足取りが重い。でもCM作成の責任者として制作チームに報告する義務がある。


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