恋するダイエッター
「クライアントさんが差し入れで沢山くれたんですよ、真由子さんに一つあげる。」
箱の中身はホワイトとダークの二種類のトリュフ。
「…嫌味か。」
「違うって。ダイエットするなら少しだけこう言うもの食べて満たした方がいいよって事。別にこれを食べたってその後しこたま食べなきゃ太んないよ。」
「たまには自分にご褒美あげたら?」と去って行く佐竹の背中を見送って、トリュフに目線を落とした。
自分にご褒美か…。
ゴールは確かに田井中さんへの告白だけど、途中休憩も必要なのかもしれない。
口に入れたトリュフは少し洋酒が利いていて甘さが控えめ。濃厚な滑らかさの中に苦みがあってとても美味しい。
思わず頬が緩んだら、カシャっと目の前でスマホが音を立てた。
「真由子さんの至福顔ゲット!」
「さ、佐竹!」
いつの間に戻って来てたの?!
「消しなさいよ」と手を伸ばすと、軽くそれを上に持ち上げて避けられる。
男子の中では小柄な方かもしれないけれど、170cm程の佐竹と160cmに満たない私。どう考えても部が悪い。取り上げようと試みた所で勝敗は目に見えている。
「佐竹、お願いだから消して…。」
お肉満載の私の画像を誰かが持ってるって思っただけで悲しくなる。
「えー。凄い良い顔してんのに…まあ、じゃあ、消そうかな。」
「うん、そうして。」
「でも、条件付き。」
首を捻った私に菩薩の様な笑みを向ける佐竹から悪魔のしっぽが見えているのは気のせいだろうか…。
「田井中さんへの告白をやめる事。」
……いや、もっと質が悪い。
平然と言って退けた佐竹に嫌悪感が芽生える。
「何でそんな条件…」
「だって告白しても意味ないもん。」
どことなく分かっていた答えが返って来て、思わず深く溜め息をついた。
私じゃ笑い者になるだけって事?そんなのわかってるよ。
もちろん付き合えるなんて思ってはいないけど、せめて少しでも綺麗になって告白したいっていう気持ちすら私は持っちゃいけないの?
そりゃあんたは、社内でも『仕事の出来る、人なつっこい可愛い男子』としてイケメン認定されているかもしれないけどさ。どうしてそこまで言われなきゃいけないわけ?
座り直して無言でお茶を啜り出す私を佐竹が少し覗き込む。
「真由子さん?」
「画像はどうぞ、好きにして。だけどもう私に絡まないで。」
「や、あのさ…。」
そこで私の機嫌を損ねたと察知したらしい彼は、言い訳を始めようと隣へと寄って来たけれど。
「佐竹くん!」
不機嫌な私よりも2オクターブ程高い声が割って入る。
チラリと目線をあげて見た先には、佐竹と同期で受付嬢の皆川さんが、小脇に人気ブランドのランチバッグを下げて立っていた。
身長は私と同じ位の彼女は、肩下まで伸ばした艶髪をクルンと丸め微笑む。
ほっそりとしている全身は顔も例外ではなくて、笑った所で顔の下にもう一つ顔が重なっているんじゃないかと思わせる顎下の肉など無縁だ。
佐竹の言葉がみぞおちに入り痛みを味わっている今、とてもじゃないけど『綺麗女子+イケメン男子+ブルドック』と言う構図で仲良く話しが出来る精神状態ではない。
「真由子さん…」
「ほら、皆川さんがお呼びだよ。行きなよ、佐竹。トリュフごちそうさま。二度とくれなくて結構だから。」
…可愛くないとは分かっていてもどうしても言い方に刺が生まれる。
「佐竹くん?」
すぐ側まで来た皆川さんは、私に挨拶をしてただならぬ雰囲気を少しだけ感じ取ったらしい。心配そうに佐竹を少し覗き込む。
「…真由子さん、またね。」
そんな彼女を察してか、目を合わせようとしない私に佐竹はそれだけ言って去って行った。
その二人を追うかの様に近くのテーブルで噂話に花が咲き始める。
「見て!皆川さん、また佐竹くんといるよ。」
「そう言えば、皆川さんて佐竹くん狙いだっけ。」
「お似合いだよね。美人と可愛い男子のカップル!」
それを左耳から右耳に聞き流しつつ、お茶を全て飲み干した。
ほらね…やっぱり良かった。
ブルドックが混じらなくて。
箱の中身はホワイトとダークの二種類のトリュフ。
「…嫌味か。」
「違うって。ダイエットするなら少しだけこう言うもの食べて満たした方がいいよって事。別にこれを食べたってその後しこたま食べなきゃ太んないよ。」
「たまには自分にご褒美あげたら?」と去って行く佐竹の背中を見送って、トリュフに目線を落とした。
自分にご褒美か…。
ゴールは確かに田井中さんへの告白だけど、途中休憩も必要なのかもしれない。
口に入れたトリュフは少し洋酒が利いていて甘さが控えめ。濃厚な滑らかさの中に苦みがあってとても美味しい。
思わず頬が緩んだら、カシャっと目の前でスマホが音を立てた。
「真由子さんの至福顔ゲット!」
「さ、佐竹!」
いつの間に戻って来てたの?!
「消しなさいよ」と手を伸ばすと、軽くそれを上に持ち上げて避けられる。
男子の中では小柄な方かもしれないけれど、170cm程の佐竹と160cmに満たない私。どう考えても部が悪い。取り上げようと試みた所で勝敗は目に見えている。
「佐竹、お願いだから消して…。」
お肉満載の私の画像を誰かが持ってるって思っただけで悲しくなる。
「えー。凄い良い顔してんのに…まあ、じゃあ、消そうかな。」
「うん、そうして。」
「でも、条件付き。」
首を捻った私に菩薩の様な笑みを向ける佐竹から悪魔のしっぽが見えているのは気のせいだろうか…。
「田井中さんへの告白をやめる事。」
……いや、もっと質が悪い。
平然と言って退けた佐竹に嫌悪感が芽生える。
「何でそんな条件…」
「だって告白しても意味ないもん。」
どことなく分かっていた答えが返って来て、思わず深く溜め息をついた。
私じゃ笑い者になるだけって事?そんなのわかってるよ。
もちろん付き合えるなんて思ってはいないけど、せめて少しでも綺麗になって告白したいっていう気持ちすら私は持っちゃいけないの?
そりゃあんたは、社内でも『仕事の出来る、人なつっこい可愛い男子』としてイケメン認定されているかもしれないけどさ。どうしてそこまで言われなきゃいけないわけ?
座り直して無言でお茶を啜り出す私を佐竹が少し覗き込む。
「真由子さん?」
「画像はどうぞ、好きにして。だけどもう私に絡まないで。」
「や、あのさ…。」
そこで私の機嫌を損ねたと察知したらしい彼は、言い訳を始めようと隣へと寄って来たけれど。
「佐竹くん!」
不機嫌な私よりも2オクターブ程高い声が割って入る。
チラリと目線をあげて見た先には、佐竹と同期で受付嬢の皆川さんが、小脇に人気ブランドのランチバッグを下げて立っていた。
身長は私と同じ位の彼女は、肩下まで伸ばした艶髪をクルンと丸め微笑む。
ほっそりとしている全身は顔も例外ではなくて、笑った所で顔の下にもう一つ顔が重なっているんじゃないかと思わせる顎下の肉など無縁だ。
佐竹の言葉がみぞおちに入り痛みを味わっている今、とてもじゃないけど『綺麗女子+イケメン男子+ブルドック』と言う構図で仲良く話しが出来る精神状態ではない。
「真由子さん…」
「ほら、皆川さんがお呼びだよ。行きなよ、佐竹。トリュフごちそうさま。二度とくれなくて結構だから。」
…可愛くないとは分かっていてもどうしても言い方に刺が生まれる。
「佐竹くん?」
すぐ側まで来た皆川さんは、私に挨拶をしてただならぬ雰囲気を少しだけ感じ取ったらしい。心配そうに佐竹を少し覗き込む。
「…真由子さん、またね。」
そんな彼女を察してか、目を合わせようとしない私に佐竹はそれだけ言って去って行った。
その二人を追うかの様に近くのテーブルで噂話に花が咲き始める。
「見て!皆川さん、また佐竹くんといるよ。」
「そう言えば、皆川さんて佐竹くん狙いだっけ。」
「お似合いだよね。美人と可愛い男子のカップル!」
それを左耳から右耳に聞き流しつつ、お茶を全て飲み干した。
ほらね…やっぱり良かった。
ブルドックが混じらなくて。