恋するダイエッター
◇
見た目も悪けりゃ性格も悪い。
私、最悪だな…。
佐竹に辛く当たってしまった後悔は部署へ戻る途中からじわじわと押し寄せて来て、到着する頃には自己嫌悪に陥っていた。
そんな私とは裏腹に、部署内はどことなく明るい雰囲気に包まれていて、皆で田井中課長を囲む様にして話をしている。
何か良い出来事でもあったのだろうかと輪に近寄っていくと、先輩の海藤さんが笑顔そのままに振り向いた。
「武田!お前もほら一緒に祝福しろよ!」
「海藤、そんな大袈裟にしなくても…」
田井中課長が苦笑いすると海藤さんは余計に嬉しそうに顔を綻ばせる。
「いや、田井中課長の幸せは俺らも嬉しいですから!」
正に部下の鏡とも言うべき態度の海藤さんに、やっぱり田井中課長は皆に愛されているんだな…と素直に感心出来たのは、その内容を知らなかったからだって思う。
「田井中課長、結婚するんだってさ!」
一瞬、耳を疑った。
田井中課長は、「誰にでも平等すぎて彼女ができないのでは」と囁かれる程、社内で浮いた噂が立たなかったはず。告白しようと決める前にその辺はしっかりリサーチ済みであったはずなのに。
「えっと…お見合いかなにか…」
「純愛だよ!10年にも及ぶ、純愛!大学の時の同級生だってさ!ずっと密やかに愛を育んでいたんだよ!」
ふふんと自分の事の様に胸を張る海藤さんの横で田井中さんが嬉しそうに困り顔をしている。
「武田にも結婚式の招待状を送るから是非来てな?」
「当然だよな、武田!」
私の答えを待たずして、テンションが最高潮になっている海藤さんが身を乗り出した。
「よし、出し物を考えるぞ!お前は…そうだ、フレンチブルドッグの格好とかして歌ったら可愛いかもな。」
「フレンチ…ブルドック。」
「田井中課長の奥さんになる人が大切にしているフレンチブルドックがお前そっくりなんだ。」
田井中課長が止める間もなく、何の悪気も無いであろう海藤さんに「ほら彼女も犬も可愛いだろう?」と見せられた画像。
奥さんになる女性は、皆川さん寄りのスレンダーで小柄なかわいらしく胸だけが大きめだった。
そしてフレンチブルドックは、可愛いかどうかは別にして、確かに似ていると自分でも認めてしまう程のぽってり具合で、幸せそうなドヤ顔をこちらに向けている。
ああ…そうか、と全てを悟った。
『スレンダーより、もう少し肉付きが良い方が』
あれは、スレンダーが苦手なのではなくて、スレンダーでありつつも胸が大きい人が好きと言う意味。
『武田がいると落ち着く』
あれは、彼女さんのペットを田井中課長もこよなく可愛がっているから、そこに私を重ねていただけ。
「あの…昼休み、まだ少し時間があるのでもう一度出て来ます。」
「え…?あ、ああ…どうした?そう言えば少し顔色が悪いな。体調崩してるのか?」
「…いえ。お昼を食べ損ねました。」
「そりゃ一大事じゃねーか!お前が食べなくてどうする!食ってこい武田、今すぐ!」
私を心配する田井中さんの悪気の無さに脱力しつつ、海藤さんの潔い優しさに感謝して再び食堂を目指す。
気持ち的には絶望の縁に立ち放心状態だったけれど意外と足取りはしっかりしていたらしい。何事も無く、目的の場所へと到着した。
再び訪れた食堂の中は昼休みの始めに比べると人が少なく、閑談している人達もまばらで、落ち着いた時間を過ごしている様に見えた。
そんな食堂の中を一度見渡してから入口の券売機に体を向ける。
千円札を一枚挿入すると、“ようこそいらっしゃいませ!”と言わんばかりに、それぞれのメニューボタンが赤く点灯した。
見た目も悪けりゃ性格も悪い。
私、最悪だな…。
佐竹に辛く当たってしまった後悔は部署へ戻る途中からじわじわと押し寄せて来て、到着する頃には自己嫌悪に陥っていた。
そんな私とは裏腹に、部署内はどことなく明るい雰囲気に包まれていて、皆で田井中課長を囲む様にして話をしている。
何か良い出来事でもあったのだろうかと輪に近寄っていくと、先輩の海藤さんが笑顔そのままに振り向いた。
「武田!お前もほら一緒に祝福しろよ!」
「海藤、そんな大袈裟にしなくても…」
田井中課長が苦笑いすると海藤さんは余計に嬉しそうに顔を綻ばせる。
「いや、田井中課長の幸せは俺らも嬉しいですから!」
正に部下の鏡とも言うべき態度の海藤さんに、やっぱり田井中課長は皆に愛されているんだな…と素直に感心出来たのは、その内容を知らなかったからだって思う。
「田井中課長、結婚するんだってさ!」
一瞬、耳を疑った。
田井中課長は、「誰にでも平等すぎて彼女ができないのでは」と囁かれる程、社内で浮いた噂が立たなかったはず。告白しようと決める前にその辺はしっかりリサーチ済みであったはずなのに。
「えっと…お見合いかなにか…」
「純愛だよ!10年にも及ぶ、純愛!大学の時の同級生だってさ!ずっと密やかに愛を育んでいたんだよ!」
ふふんと自分の事の様に胸を張る海藤さんの横で田井中さんが嬉しそうに困り顔をしている。
「武田にも結婚式の招待状を送るから是非来てな?」
「当然だよな、武田!」
私の答えを待たずして、テンションが最高潮になっている海藤さんが身を乗り出した。
「よし、出し物を考えるぞ!お前は…そうだ、フレンチブルドッグの格好とかして歌ったら可愛いかもな。」
「フレンチ…ブルドック。」
「田井中課長の奥さんになる人が大切にしているフレンチブルドックがお前そっくりなんだ。」
田井中課長が止める間もなく、何の悪気も無いであろう海藤さんに「ほら彼女も犬も可愛いだろう?」と見せられた画像。
奥さんになる女性は、皆川さん寄りのスレンダーで小柄なかわいらしく胸だけが大きめだった。
そしてフレンチブルドックは、可愛いかどうかは別にして、確かに似ていると自分でも認めてしまう程のぽってり具合で、幸せそうなドヤ顔をこちらに向けている。
ああ…そうか、と全てを悟った。
『スレンダーより、もう少し肉付きが良い方が』
あれは、スレンダーが苦手なのではなくて、スレンダーでありつつも胸が大きい人が好きと言う意味。
『武田がいると落ち着く』
あれは、彼女さんのペットを田井中課長もこよなく可愛がっているから、そこに私を重ねていただけ。
「あの…昼休み、まだ少し時間があるのでもう一度出て来ます。」
「え…?あ、ああ…どうした?そう言えば少し顔色が悪いな。体調崩してるのか?」
「…いえ。お昼を食べ損ねました。」
「そりゃ一大事じゃねーか!お前が食べなくてどうする!食ってこい武田、今すぐ!」
私を心配する田井中さんの悪気の無さに脱力しつつ、海藤さんの潔い優しさに感謝して再び食堂を目指す。
気持ち的には絶望の縁に立ち放心状態だったけれど意外と足取りはしっかりしていたらしい。何事も無く、目的の場所へと到着した。
再び訪れた食堂の中は昼休みの始めに比べると人が少なく、閑談している人達もまばらで、落ち着いた時間を過ごしている様に見えた。
そんな食堂の中を一度見渡してから入口の券売機に体を向ける。
千円札を一枚挿入すると、“ようこそいらっしゃいませ!”と言わんばかりに、それぞれのメニューボタンが赤く点灯した。