恋するダイエッター
…て、ちょっと待ちなさいよ。
一瞬間を置いてからレンゲで佐竹の鼻頭をペチンと叩く。
「痛っ!」
「あ、あんたね!いきなり何を…」
鼻を抑えた佐竹が若干涙目で私をチラリと見た。
「別にいきなりってわけじゃないよ?
俺と食べる時もよくこの柱の影の席に座るでしょ?その度に狙ってはいたから。」
私とラーメン食べる時そんな事を目論んでたの?
そういや、私、初めてキスしたんだ。
まあ…この歳でファーストキス云々も無い気がするけど。
佐竹の言動に頭の中の整理があまりうまくつかない。
落ち着こうとチャーシューメンに目を落とした。
半分浸かりかけたチャーシューがやっぱり艶やかな色香を放っている。
…とりあえず食べようか、チャーシューメン。
鼓動が早いまま、再び麺を啜り出す。
少しのび始めた麺は醤油ベースのスープを吸い込んで味がより濃厚になっていて、それもまた美味しい。
「チャーシューメン我慢しないで痩せる方法ないのかな…」
ふと呟いた言葉に佐竹が再び私に向かって身を乗り出した。
「食事を減らさないで運動すれば?一駅分歩くとか軽いのから始めてさ。俺、一緒に歩きますよ?」
「いや…でもそこを佐竹に迷惑かけるのもどうかと。」
「もちろん協力するからには条件があるよ?俺の彼女になること。」
頬張ったチャーシューをほっぺたに入れたまま佐竹を見たら、眉を下げて苦笑いをされた。
「あー…もう。」
佐竹の指が伸びて来て頬に触れる。
「ねえ、どうしたら俺んち来てくれます?今日。」
「今日?何でよ。」
「何でって…家で出来る運動もあるでしょ?」
佐竹の妖艶な笑みに思わず体が熱くなる。
「し、知らない!」
「平気。俺が一晩かけてじっくり教えてあげるから。」
「や、ヤダってば…。
大体、失恋したからすぐに佐竹とどうのって言うのは違うと思う。」
「それでもいい。俺が真由子さんを独り占めしたいだけだから。真由子さんのダイエットに協力する代わりに俺の希望も聞いて?」
……果たしてイケメン認定されている佐竹が私を独り占めにする事に価値があるのだろうか。
理解し難い条件に首を捻った。それに佐竹がむうっとまた口を尖らせる。
「真由子さんは疎いんだよ。海藤さんとか真由子さんの事超好きじゃん。人事異動、海藤さんが真由子さんと部署を一緒になりたくて田井中さんに泣きついたって噂がある位だよ?」
絶対デマだよ、その噂。
好きな子にフレンチブルドックに似てるなんて言う?まぁ、“可愛い“とは言っていたけど。
大体、社内の噂なんてあてにならないのは、田井中さんで経験済みだもん。
けれど、私の為に海藤さんにヤキモチを妬く佐竹の言葉は噂とは違う。紛れもなく直接私に投げかけてくれているわけで。
田井中さんに失恋した今、逆に説得されてみるのもいいのかもしれない。
「…分かった。」
私の返事に嬉しそうに笑った佐竹の顔が再び近づいて唇が触れ合う。
「……。」
再びレンゲで鼻頭をペチンと叩くと「痛っ!」と鼻を抑えつつ笑顔。そんな佐竹に私も頬が緩んで笑顔になった。
彼氏居ない歴25年、ダイエット失敗歴は十数年。
思わぬ形で彼氏が出来た。
ダイエットって一人で頑張るものだって思っていたけれど、こうやって私の事を見守り協力してくれる人の隣で頑張ると違うのかな…。
佐竹の隣で笑うスレンダーな自分を夢見て、丼の中のスープを飲み干した。
…うん、やっぱりチャーシューメンは美味しいや。
《恋するダイエッター fin.》
一瞬間を置いてからレンゲで佐竹の鼻頭をペチンと叩く。
「痛っ!」
「あ、あんたね!いきなり何を…」
鼻を抑えた佐竹が若干涙目で私をチラリと見た。
「別にいきなりってわけじゃないよ?
俺と食べる時もよくこの柱の影の席に座るでしょ?その度に狙ってはいたから。」
私とラーメン食べる時そんな事を目論んでたの?
そういや、私、初めてキスしたんだ。
まあ…この歳でファーストキス云々も無い気がするけど。
佐竹の言動に頭の中の整理があまりうまくつかない。
落ち着こうとチャーシューメンに目を落とした。
半分浸かりかけたチャーシューがやっぱり艶やかな色香を放っている。
…とりあえず食べようか、チャーシューメン。
鼓動が早いまま、再び麺を啜り出す。
少しのび始めた麺は醤油ベースのスープを吸い込んで味がより濃厚になっていて、それもまた美味しい。
「チャーシューメン我慢しないで痩せる方法ないのかな…」
ふと呟いた言葉に佐竹が再び私に向かって身を乗り出した。
「食事を減らさないで運動すれば?一駅分歩くとか軽いのから始めてさ。俺、一緒に歩きますよ?」
「いや…でもそこを佐竹に迷惑かけるのもどうかと。」
「もちろん協力するからには条件があるよ?俺の彼女になること。」
頬張ったチャーシューをほっぺたに入れたまま佐竹を見たら、眉を下げて苦笑いをされた。
「あー…もう。」
佐竹の指が伸びて来て頬に触れる。
「ねえ、どうしたら俺んち来てくれます?今日。」
「今日?何でよ。」
「何でって…家で出来る運動もあるでしょ?」
佐竹の妖艶な笑みに思わず体が熱くなる。
「し、知らない!」
「平気。俺が一晩かけてじっくり教えてあげるから。」
「や、ヤダってば…。
大体、失恋したからすぐに佐竹とどうのって言うのは違うと思う。」
「それでもいい。俺が真由子さんを独り占めしたいだけだから。真由子さんのダイエットに協力する代わりに俺の希望も聞いて?」
……果たしてイケメン認定されている佐竹が私を独り占めにする事に価値があるのだろうか。
理解し難い条件に首を捻った。それに佐竹がむうっとまた口を尖らせる。
「真由子さんは疎いんだよ。海藤さんとか真由子さんの事超好きじゃん。人事異動、海藤さんが真由子さんと部署を一緒になりたくて田井中さんに泣きついたって噂がある位だよ?」
絶対デマだよ、その噂。
好きな子にフレンチブルドックに似てるなんて言う?まぁ、“可愛い“とは言っていたけど。
大体、社内の噂なんてあてにならないのは、田井中さんで経験済みだもん。
けれど、私の為に海藤さんにヤキモチを妬く佐竹の言葉は噂とは違う。紛れもなく直接私に投げかけてくれているわけで。
田井中さんに失恋した今、逆に説得されてみるのもいいのかもしれない。
「…分かった。」
私の返事に嬉しそうに笑った佐竹の顔が再び近づいて唇が触れ合う。
「……。」
再びレンゲで鼻頭をペチンと叩くと「痛っ!」と鼻を抑えつつ笑顔。そんな佐竹に私も頬が緩んで笑顔になった。
彼氏居ない歴25年、ダイエット失敗歴は十数年。
思わぬ形で彼氏が出来た。
ダイエットって一人で頑張るものだって思っていたけれど、こうやって私の事を見守り協力してくれる人の隣で頑張ると違うのかな…。
佐竹の隣で笑うスレンダーな自分を夢見て、丼の中のスープを飲み干した。
…うん、やっぱりチャーシューメンは美味しいや。
《恋するダイエッター fin.》