〜starting over〜
色々悶々としていると、ロケバスが一軒の家で止まった。

待って……ここって……。

そこは私が15年過ごした私の家。
困惑に木崎さんを見ると、どうやら、私はここで降りなければならないらしい。
心の準備も出来てないのに、いきなり両親と再会なんて。
まさか、カメラもついてくるのかと思ったけど、私1人降車するらしい。

「湊さんが、何か無理やりでも切っ掛けがないと、杏は家に帰れないだろうからって。俺としてはご両親に挨拶をしたいとこなんだけど、まずは家族水入らずでって事で」

どうやら、湊さんの心遣いらしい。
あの不機嫌、無関心な湊さんが?
えぇ~、ちょっと信じられない。
どうしようか逡巡していると、2人の男性が私の家から出てきた。
お客さんがきていたらしい。
ふと駐車場を見ると見慣れた白のミニバンが停まっている。
なんで湊さんの車が……?
促されるまま降車すると、奈々が窓から「明日ね~」と手を振ってくれたけど……白のミニバンに視線を逸らす。
インターホンに指を添えて、鳴らすか否か迷う。
自分の家であって、家じゃないような他人行儀な錯覚に襲われる。ドキドキ高鳴る心臓がうるさい。

ーーーーー怖い。

ダメだ、勇気が出ない。
手を下ろし、行き場のないまま踵を返すと最後で玄関ドアが開く音がした。
振り返ると、不機嫌顔が標準装備の湊さんが、眉間に皺を寄せて立っていた。
無言で首根っこを掴まれると、家の中に引きずり込まれた。

「ま、待ってっ。心の準備が……」

リビングに放り出されて、両親と強制再会を強いられた。
私を見たお母さんは滂沱の涙を流し、きつく……きつく抱きしめてくれた。
最後にちゃんと話ができなかったお父さんは、肩を震わせて俯いたまま顔をあげてくれなかった。
席をはずそうとする湊さんの服を掴んで離さず、狼狽する湊さんが可笑しくて笑えた。

「……ただいま」

此処にいるのは、気の置けない生み育ての両親、養いの叔父である。
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