〜starting over〜

「おまえ、来年からどうするんだ?」
「まだ考え中」
「実家帰るのか?」

家業の手伝い、悪くないかも。
でも、

「地元には私の高校時代を知る人も多いし、ちょっとヤダな」
「引退して、またそこのスーパーでバイトでもすれば」
「う~ん。これでも一応Museとして売れてたから、冷却期間置かなきゃ、店に迷惑かけちゃいそう」

て、自惚れかしら。

「客寄せパンダで喜ぶんじゃね?」
「何よ~。そういう湊さんは、私にここに帰ってきてほしいだけじゃないの?」

眉間の皺が深くなった。
はいはい、すみません。
お酒が進む。

「……湊さんバンドやってたの?」
「……」
「結構前に、お父さんから動画見せられて」
「……昔の事だ」
「えぇ~、かっこよかったのに~」

こんな事いえるなんて、ちょっと酔ってるかも。
更にグラスにお酒を注ぐ。
湊さんもグイっと飲み干す。

Muse加入して間もない時、奈々から聞いた話。
前メンバーだった矢代瑠璃が湊さんに憧憬してアタックしまくってたって。
最終的に、完全拒絶され脱退を余儀なくされたそうだ。
今は女優として開花した彼女をテレビで見るたび、形にならないドロドロとした不快感がこみ上げてくる。
その理由を考えないよう、意識を沈めてきたけど……。

どれだけ時間が経ったのかは解らない。
どちらからって……私からなんだけど。
湊さんの指に自分の指を絡ませた。
なんせ経験がないものだから、どうしたら年上の男を口説けるかなんて解らない。
だから、素直に言う事にした。

「湊さんが……欲しいの」

寝室で、自分に圧し掛かる獣が、見下ろす瞳に灯る、劣情。
その炎をもっと滾らせたくて、強請るように首に両腕を回していた。
湊さんの精緻な容貌に胸の奥が疼く。
啄むようなキスが落とされ、次第に深いものへと変化していく。
柔らかな唇が、首筋を這い、ぬるりとした舌の感触。
潤んだ視界に剥き出しの自分の肌がはいってくる。
自分が、こんなふうに男を求める日がくるなんて、信じられない。
男女の営みなんて、汚らわしいとすら思えて、目を背けてきたのに。
刺激に身悶えては背を仰け反らせ、乱れる私を満足そうに見下ろす湊さんの顔はほくそ笑んでいる。
その余裕、なんか悔しい。
だから、引き寄せて私からキスをする。
もっと私でいっぱいにしたい。
< 70 / 104 >

この作品をシェア

pagetop