〜starting over〜
きっと、私は矢代瑠璃に悋気していたんだと思う。
言葉にならない不快感。
いつからかなんて解らない。
バイトから帰れば必ず家に居て(おかげでニート疑惑)一緒にご飯を食べる。
10代にしては所帯じみた生活だったけど、湊さんの傍は心地良かったし、護られてるという自負もあった。
だから、湊さんが私以外の誰かの手に触れられるなんて、考えただけで腹立たしかった。
そして、自分の中に想いに気付いた。
ずっと傍に居て絆された、てのもあるかもしれない。
でも、自分で思うように歌えなくて泣いた時も、押し潰されそうなプレッシャーの中でも、目に見えない数多の悪意に曝された時も、私を支えると言ってくれたことが嬉しかった。
この手が私だけの物ならいいのにって、思っては『家族として』と上書きして誤魔化した。
注目されてこその芸能界。
立ち止まる事も戻る事も許されず、自分を発信し続けにければ潰れてしまう。
自分で選んだ道だから、誰にも負けられない。
何も見えない、聞こえないふりをして、ただ歯を食いしばるしかなかった。
本当は、私を引き取った後、湊さんが借金を相殺してくれた事も知ってる。
それでも両親が私を預けたままにしたのは、狭い地域だから、取り立ての噂から私を護る為だったんだろう。
ツアー中、野乃花を捕まえて、佐伯小父さんとの接触に成功し、ケジメとして両親に謝罪させた。
佐伯小父さんは少量ながら、毎月きちんと返済をしているらしい。
湊さんは完済に期待はしてないようだけど、額の大小に関係なく、人に擦り付けた返済の大変さを身をもって味合わせるつもりのようだ。
強烈な圧迫感に息をするのを忘れそうになった。
喪失の痛みはあるものの、身体を押し広げながら、労わるように優しいキスが慰めてくれる。
「こんな時に考え事なんて余裕だな」
不敵な笑みを浮かべて、またキスをする。
身体が慣れてると、隘路を割って、腰をグッと引き寄せて最奥に到達する。
私の様子を見計らって、響く律動。
痛みが快感を拾うように変わると、変な声が出た。
身悶えては背を仰け反らせ、乱れる私を満足そうに見下ろす湊さんの顔は、ほくそ笑んでいる。
湊さんのくせに、その余裕が腹立たしい。
だけど、時折見せる快楽の波に吐息をもらす色気が、私を満たしてくれる。
もっと私でいっぱいにしたい――――。
初めてなのに、お腹に走る甘く強い愉悦とーが熱を持ち疼きがたまっていく。
同時に、どんどん深まる飢餓感。