〜starting over〜

「『10年の時を経て復活愛!』ですよね~。『路上で人目も憚らず熱い抱擁。時は愛を深め、再び燃え上がった情熱は、輝くネオン街に消えていった…』」
「消えてませんっ!」

得意げに暗記したであろう記事を口にする奈々。
どんだけ読み込んでるんだよ!
私が怒りに震えていると、

「杏の事務所は『2人きりで会ったわけではなく、あくまで仕事の一環です。復縁はありません』。『貧血を起こした杏を支えただけです。復縁は断られてます』て、あっちも否定してるでしょ」

そう諫めるマイもシッカリ読み込んでいるし。
てか、なんで私ばかり言われなきゃいけないのよっ。
湊さんだって矢代瑠璃と……。
膨れていると、ふいに湊さんと目が合って、反射的にプイっと顔を逸らしてしまった。
私、怒ってるのよ。
気まずい雰囲気のまま、生放送を迎える事になった。

衣装に着替えて、ヘアメイクを終えて本番へ臨む。
メイン司会者のタレントが台本通りに進行する。
雛壇に色んなジャンルのアーティストが花を添える中、Whateverの隣にMuseが座り、不本意ながらも私は湊さんの隣になる。
Museは人数が多い分、隣との距離がない。
久しぶりに感じる湊さんの体温に、本当に不本意ながら凄くドキドキする。
少し動けば触れてしまう距離ほ意識してしまって、俯きかげんに硬直してしまう。

司会者が、Whateverの新曲について話題を振る。
その楽曲は、矢代瑠璃主演の新ドラマの主題歌だ。
週刊誌に撮られたのが、Whateverのメンバーで飲んでる時に挨拶にきた矢代瑠璃と、たまたま隣に並んだ瞬間を撮られたのだと、Whateverのマネージャーさんが楽屋までやってきてわざわざやって来て説明れたのは、本番直前の事。
わかっていても、あんな態度とっておいてどんな顔をしたらいいのかなんて解らない。
私だって、真輝との事もあるし、湊さんに怒る権利はないのに。

「この曲は、どうやって出来たの?」

司会者が、湊さんに曲の説明を求める。

「オファーをもらった時に、脚本読んで、年下の女性に想いをうまく伝えられない中年男の思いの丈を……実体験をもとに作りました」

最後に笑った湊さんが、身体を揺らした拍子に肩どうしがぶつかり、私の心臓は大きく跳ねた。
じ、実体験!?(てか、湊さんが笑う姿もなかなか貴重!)
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