〜starting over〜
本当は、玲奈とあの曲を歌いたかったんだけど、昔の曲だし、ホテルのカラオケの選曲になかったんだよね。
考え込んでいると、空気が流れる感じがして「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」と今度は奥から年代の違う歓声が響いた。
空気が流れる方に振り返ると、扉のそばに湊さんが立っていた。

「Whatever!」
「湊だーーー!」
「みなとーっ」

Whatever世代のゲストが口々に叫ぶ。
ちょっと逡巡して、湊さんが歩み寄ってくる。
どうしたのよ、という私の視線を無視して、ミニステージに上がると隣に立つ。
私の手ごとマイクを持つと、不機嫌顔のまま喋り始めた。

「えー、Whateverの湊です。新郎新婦、ご家族、ご親戚の皆様、この度はご結婚おめでとうございます。杏共々、突然お邪魔してすみません。えーっと……俺必要?」

ゲストたちの笑いがホールにこだますると、何処からともなく湊コールが起きた。
なんか……全部持ってかれた感が否めない。
湊さんは柔らかな笑みを浮かべ、多分余興か何かで使用したであろうアコースティックギターを持つ男性を指さし手招き。
てか、湊さん何様よ。
そんな扱いでも、喜々と近づいてくるゲストに「ちょっと借りるね」と言うとギターを手に、音を確認する。
気を利かせたホテル従業員が椅子を用意し、湊さんは座ると。

「Dear my……ならいけるよ」

と、何てことなさそうに言う。
は?

「あれ作ったの俺なんだよね」

湊さんがつくった……。

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
「あれ?それ唄いたいんじゃないかと思って、今すげー空気読んだつもりなんだけど。違った?」
「あってます……」
「んじゃ」

確か、あの曲の作詞作曲『M』て……湊のM!?
私的に精神的衝撃を受けているのに、そんな思いも露知らず、ギターイントロを奏でる。
頭の片隅で記憶を辿りながらも、冷静にマイクをもう1つ貰って、玲奈に渡す。
湊さんが目で合図を送ってくれたので、私が唄いだす。
玲奈も嗚咽の零す合間に唄ってくれる。
あれから全然唄っても聞いてもなかったのに、自然と歌詞がでる。
玲奈を支えながら、時々湊さんを見るとリズムに乗っている。
そういえば、初めて会った時、失恋話の時に親友と『Dear my……』をよく唄うのが好きで、
でお互いの結婚式で唄おうって約束したって話したんだけっけ。
覚えててくれたんだ……。
終わると、ホール大歓声が響いた。
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