〜starting over〜
喉の奥に言葉が引っ掛かって、心臓が大きく脈打ってるのを感じる。
手が震えて、懸命にマイクをギュッと握った。
玲奈の方を見ると両手で口を塞ぎ、大きく肩を上下させて泣いてる姿があった。
「私が芸能活動を始めて、2人とは疎遠になってしまいましたが、大好きな2人の門出をお祝いできるこの場に居られることが嬉しいです。私が2人の為に出来る事って何かなって考えたんですけど、やっぱり歌かなって」
そう言うと、周囲から大きな歓声が起きた。
「聞いて下さい。Museの曲で『幸福論』」
1人でMuseの曲を唄うには、重厚感が足りないかもしれない。
それでも、Museの中で誰にも負けない表現力でカバーするしかない。
玲奈は、私が辛い時、いつも傍で励ましてくれた。
心が折れそうな時いっぱい笑顔をくれました。
それが、とても心強くて……私は甘えてばかりだった。
その笑顔に隠された玲奈の苦悩に気付かず、自分の感情を一方的にぶつけてばかりいた。
私は、親友だと言いながら、1度でも玲奈の弱音を聞いた事があったかな。
あの時、玲奈の気持ちを知ってどう変わったかは解らないけど、きっと今みたいな結果にはならなかったと思う。
だって、私は玲奈も大切だったんだよ。
高砂席の方を見ると、泣きじゃくる玲奈に寄り添う島田君がいた。
お互いを支え合い、良い家族を築く姿が垣間見れた気がした。
真輝と玲奈のした事は許せないし、私なりに傷ついた。
だけど、私も私で玲奈を傷つけてたのだ。
唄い終わる、玲奈がドレスの裾を持って此方へ走ってくる姿が見えて。
ドレスで走ったら危ないのに。
両手を広げて突進してくる玲奈を受け止める。
「杏、杏、杏っ」
ありがとう、ごめんと繰り返す玲奈。
「遅くなってごめんね。おめでとう。とっても綺麗だよ」
「杏、杏……。私……私……っ」
「いいの……。もう、いいんだよ」
そんな玲奈の背に手を回し、子供を宥めるように抱きしめる。