敏腕メイドと秘密の契約
"倉本天音"

藍と同じ中学校の同窓生。

13歳の時、初めて天音を見たときは
"天真爛漫、自信家、人気者、イケメン"
という代名詞がぴったりな少年だと思った。

"鉄仮面""エーアイ"
と称される藍だが、表情に出ないだけでかなりの萌えキャラ推しであった。

可愛いもの、かっこいいものが普通に好き。

ただ、人と会話していても、その瞬間、人の倍以上の情報を処理してしまうのでリアクションが遅れる。

それを
"愛想がない""無表情""鉄仮面"と言われ、

人とコミュニケーションをとるのが面倒になり、一人でいることを好むようになった。

藍にとって、人気者で自分と正反対の天音は眩しかった。

その天音が笑わなくなったのはいつからだっただろうか。

ある日、職員室に届け物を持って行った際、
成績を表示したホワイトボードの前で立ち尽くす天音を見かけた。
悔しそうに拳を握って、自分の名前が書かれた辺りを睨んでいた。

"2位:倉本天音"

1位は当然、三浦藍だ。

藍がこの学校に来るまでは、常に天音が実力テスト1位だったとクラスメートの女子が話していた。

藍は、中学、高校レベルの勉強はすでにマスターしており、現在はシステム理論を読破することに夢中になっていた。

機械は裏切らない。例え壊れても自分で好きなようにプログラミングすることができる。

友達のいない藍は益々、コンピューターの世界に没頭していった。

そんなわけで、藍のテストはいつも満点。満点以外はあり得ないから、天音が満点を取れさえすれば同率1位になれる。

しかし、天音はただの秀才。天才ではなかった。

教師達は、毎回、藍のために少し難しい問題を数問ずつ入れてくる。もちろん藍は解けるが、天音には無理だ。

この繰り返しにより、倉本天音の毎回2位は確定的なものとなっていったのである。

天音の顔から笑顔が消え、常に勉強している姿が目に飛び込むようになった。

成績表が張り出される度に、苦痛に歪む表情。
こけていく頬。

藍は、ひそかに憧れていた天音の変わりように胸を痛めた。

"私がここにいたら倉本天音を壊してしまう"

そう思った藍は、淡い初恋を心に閉まったまま、
母の申し出に乗り、高校アメリカ留学を決意したのである。

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